橋本裕の日記
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| 2007年09月25日(火) |
子どもを虐待する母親(4) |
久しぶりの家族の団欒だったが、レストランでの会話は弾まなかった。息子はあいかわらずおどおどしていた。夫が広島のことを話題にし、夏休みに遊びに来ないかと息子を誘った。息子はそのときだけ笑顔をうかべたが、すぐに母親の顔を盗みみて、笑顔を消した。
半そでのシャツから伸びた二の腕には、青い痣があった。それは彼女が二日前にスリッパで殴ったときにできたのだろう。ささいなことでいらだった彼女は、自分でも制御できなくなっていた。気がついたら、スリッパを脱いで、息子を八つ叩きにしていた。
日頃冷静な自分が、そのときは別人のように凶暴になった。それはまるでもう一人の別の人格の人間が自分のなかに棲んでいるようでさえあった。さすがに彼女は自分で自分がこわくなった。そこで、今日、祖父母の頃から昵懇にしていた寺の住職を訪れたのだった。
住職に胸のうちを話して、少しこころが軽くなった。それでも息子のおどおどした表情を見ていると、また、いらいらした気持が兆してくる。それが顔に表れているのだろう。息子はますます怖気づいて、うつむいてしまった。
子どもを折檻していることは夫には話してはいない。しかし、1年ほど前に夫は息子と一緒に風呂に入って、息子の肩口の青あざに気づいていた。夫は理由を息子に聞いたらしかったが、そのとき息子はただ泣きじゃくるだけで、母親から折檻を受けたとは答えなかったようだ。
その夜、寝室で夫から肩口の青あざのことを聞かれた彼女は、学校で喧嘩があったことを話した。それは事実だったし、そのことで彼女は学校に呼び出されてもいた。夫は彼女の話を信じて、彼女が息子に折檻をしているとは夢にも思ってもいないのだろう。
夫は食事をしながら、息子の二の腕の青あざを見ていたが、何も言わなかった。また、喧嘩でもしたのだろうと、軽く考えているのかも知れなかった。彼女が家に帰ったとき、二人はソファで身を寄せあっていたが、息子が折檻のことを父親に打ち明けたようにも見えなかった。
彼女が息子に口止めしているわけではない。それでも息子が何も話さないのは、父に知らせれば母親の折檻がさらにひどくなるかもしれないと恐れているのだろう。そんなことをあれこれと考えていたので、彼女は食事をしながらも楽しくはなかった。
夫もいつもよりさらに精彩がなかった。食欲もなさそうで、せっかく注文した料理も半分近く残した。そして、ときどき放心したようにレストランの窓越しに、遠くの街の明かりを眺めていた。夫もかなり疲れている様子だった。
(今日の一首)
こころとは不思議なものよ空を行く 雲のよろしさなぜかたのしい
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