橋本裕の日記
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| 2007年09月24日(月) |
子どもを虐待する母親(3) |
彼女が家に帰ってくると、広島に単身赴任中の夫が帰っていた。茶の間でテレビを見ながら缶ビールを飲んでいる。夫の隣に息子も並んでテレビ見ていたが、母親を見ると、おずおずと立ち上がった。夫が弁解がましく言った。
「こちらに急遽出張になってね、ちょっと寄ってみたんだ」 「それで、泊まっていくの」 「そうだな。どうしようかな」
夫は自分で買ってきた缶ビールをテーブルに置くと、彼女の顔色をうかがった。迷っていて、その答えを彼女の表情の中に探しているらしい。昔から気の弱いところがあった。
夫が広島に単身赴任になったのは、3年ほど前だった。最初の頃は週末に帰ってきたが、最近は数ヶ月に一度くらいしか帰ってこない。このことについて、彼女は不満を覚えたことはなかった。淋しいとも思わない。もともと母が決めた縁談で、夫に恋愛感情を抱いたこともなかった。
といって男として夫を嫌っているわけではない。帰ってきた夜には、夫はおずおずと彼女の体を求めてきた。彼女は求められれば、これも義務だと思って素直に応えたが、終わった後、とくに満たされた思いがするわけでもない。
夫が泊まって行くと、また自分を求めるかもしれない。およそ二ヶ月ぶりの夫婦の営みになる。夫が自分の顔色をうかがうのは、そんなことも含めて遠慮があるのかと、彼女はちょっと夫があわれにさえ思えた。
「泊まっていきなさいよ。レストランで夕食にしましょう」 「それはいいね」
夫は自分の見の振り方が決まって、ほっとした様子だった。ネクタイをはずしして、ワイシャツの襟元をゆるめた。
「冷蔵庫の中に、まだ缶ビールがある。君も飲まないか」 「レストラン行くのでしょう。私が飲んだら、だれが運転するのよ」 「ああそうか。すまないね」
夫は気弱そうな微笑を浮かべて、また缶ビールに口をつけた。彼女は夫を居間に残して、浴室に行った。浴槽を入念に掃除した。そのあと、ゆっくりシャワーを浴びた。(続く)
(今日の一首)
雨の音やさしく聞きぬあさぼらけ 友の手紙をひろげて読めば
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