橋本裕の日記
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6年前の9.11事件からはじまった「テロとの戦争」で、アメリカ兵だけで4000人以上の命が奪われた。しかも今もなおイラクではテロがやまず、内戦の危機まで危惧されている。イラク戦争がはじまったときは9割以上の米国民が戦争を支持していたが、いまは6割の人たちが「イラク戦争はまちがいだった」と考えはじめている。
アメリカがイラク戦争へと突き進んだ背景には、いろいろな要因が考えられる。しかし、もっとも大きいのは経済的な要因であろう。政府がこれまで大金を戦争につぎこんだということは、それだけのお金が関連の企業に入ったということである。つまり、戦争で企業は確実にもうけたわけだ。
そしてその儲けはアメリカがこのテロとの戦争で費やした50兆円あまりの巨大な軍事費と見合っている。つまりこの戦争でとてつもなく大もうけした人々がいるはずである。
戦争は経済をある意味で活性化する。IT不況に見舞われ、失業率が上昇していたアメリカ経済界にとって、戦争による財政支出は大きな恵みだったはずである。事実、これを境にアメリカの経済は活況を取り戻した。
しかし、もうひとつ戦争の要因として見逃してならないのは、米投資銀行大手ゴールドマン・サックスをはじめとするアメリカの金融界の意向であろう。アメリカの巨大な金融力の源泉にあるのは世界基軸通貨としてのドルの威光である。
米国の貿易赤字も、経常赤字も、財政赤字も巨大なものである。アメリカが普通の国であれば、通貨危機や超インフレに見舞われてもおかしくはない。しかしそうならないのは、アメリカの通貨であるドルが世界の通貨として使われているからだ。ドルが基軸通貨であれば、アメリカは莫大な借金も恐れることはない。ひつようならドルを増刷して、世界中にばらまけばよいからである。
つまりドルの信用力でアメリカ経済は持ちこたえている。ところがユーロの出現で、ドルのこの特権的な地位が危うくなってきた。ヨーロッパやロシアのドル離れのほかに、産油国のなかに原油の決済のドル一辺倒を見直す動きが出てきたからである。
とくに今世紀に入って産油国のなかに、資産保存のために不安定なドルからユーロに切り換えようとする動きがひろがった。その急先鋒がヴェネズエラであり、イランやイラクだった。
とくにイラクのフセイン政権はその先鞭をつけた。2000年11月6日をもって、原油取引きをドルからユーロ建てに切り換えた。アメリカとしてはこれを放置するわけにはいかない。ドルの特権的地位を失うわけにはいかないからだ。
アメリカがイラクに戦争を仕掛けた理由をここに求める識者は多い。私もイラク戦争の隠れた動機として、アメリカのドル防衛という経済界の要請があったのではないかと考えている。経済を活性化するためだけにこれほど無謀な戦争に踏み込んでいったとは考えにくい。
このさい、ブッシュ大統領がどう考えていたかはあまり問題ではない。彼の頭のなかに「ドル防衛」という明確な観念があつたとは思えないからだ。「イラクの民主化」などという美しい題目を繰り返していた彼は、もうすこし単純で善良な頭脳の持ち主ではないか。それゆえにこそ、開戦時のアメリカの大統領としてふさわしかったのだろう。
(今日の一首)
朝あけに雨音聞けばさみどりの 田より湧きたる蛙の合唱 5
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