橋本裕の日記
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2007年09月09日(日) 地下資源と戦争

先日、教育テレビで放送された「地球データーマップ」(9月6日)という番組を見た。その日のテーマは「平和への地図」という内容で、子どもたちに戦争や内戦がおこるしくみにまで踏み込んで、わかりやすく説明していた。番組案内から引用してみよう。

<アフリカなど途上国で多発する内戦は、私たちとは関係ないことなのでしょうか。
アフリカ中央部のコンゴ民主共和国の例を見てみましょう。コンゴは国民の7割以上が栄養不足という、世界で最も貧しい国の一つです。ここでは1998年、部族間の対立がおき、2002年に和平協定が結ばれるまで内戦が続きました。その間、300万人もの人が命を落としました。働けなくするために、腕や足を切断された人たちも大勢います。

 内戦が長引いた一因に、反政府勢力が「タンタル」という鉱物資源の収入を武器購入に当てたことが挙げられます。タンタルは地球上にわずかしか存在しない金属で、埋蔵量の6割がコンゴにあります。タンタルは、皮肉なことにコンゴではいっさい使われず、コンピュータや携帯電話などの部品の原料として、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの先進国に高い値段で売られます。タンタルを売って得たお金の一部が反政府勢力に流れ、それで先進国から武器を購入するのです。

 このように、途上国で戦争が起きる背景にはしばしば地下資源の存在があり、その資源は先進国で使われます。シエラレオネやアンゴラの内戦にはダイヤモンド鉱山をめぐる利権がからんでいましたし、アメリカが攻撃したイラクは世界有数の産油国でした。

戦争は憎しみから起きると思われがちですが、実は多くの場合、背景に経済や利権など、戦争を起こす「世界のしくみ」があります。そして戦場からはるか遠くに暮らす私たちも、知らないうちにその「しくみ」の一部になっているのです。平和で持続可能な世界をつくるためには、そういう「世界のしくみ」を理解し、どうすればそれを変えていけるかを考える必要があります>

http://www.nhk.or.jp/datamap/ja/frame.html

世界銀行によると、世界の内戦の8割は、世界の国のうち最も貧しい16%の国々で起きている。結果的に内戦に陥りやすい国は、地下資源が豊かで、経済的に貧しい国だという。

 中央アフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)も世界一有数の地下資源の産出国だ。NHKの番組でも触れられていたが、コンゴが世界の60パーセントのシャエアをしめるタンタル鉱石は、携帯電話やノートパソコンの心臓部に使われている。これはないと、ノートパソコンや電子機器が動かない。

たとえば携帯電話の普及で、この希少鉱物の値段が2000年には前の年の6倍にもなったという。ところがこれだけの有力な資源賀ありながら、コンゴはいまだに世界の最貧国である。なぜ、世界でも有数のこの豊かな資源を活用して、もっと豊かな国になれないのか。

それは、皮肉なことにこの豊かな資源が、内戦を継続する糧になっているからだ。コンゴを武力で分割統治するいくつかの勢力が、それぞれの鉱物資源の利権を諸外国の企業に売り、そうして得たお金で武器を買いあさり、戦闘を激化させている。だから鉱物資源から得た潤沢な資金は戦争のために使われることになる。これでは国が豊かになれるはずがない。

 コンゴが内戦に突入する前までは、アメリカの支援を受けたモブツ大統領が国を独裁的に支配してきた。ところが冷戦後終了後、アメリカはモブツ大統領を「独裁者」だと批判し始めた。アメリカの後ろ盾を失ったモブツ大統領はあっけなく失脚した。

そのあとを隣国ルワンダの支援を受けた反政府武装組織出身のカビラがひきついだ。大統領になったカピラはさっそく、欧米系鉱山会社に独占的な採掘権を与え、その見返りに、その地域の安全を守るための軍資金を出すという契約を結んだ。

ところが、カピラに対抗する各武装勢力も、それぞれの占有する鉱山についておなじような契約を欧米系鉱山会社と結んだ、こうしておたがいに鉱山から巨大な軍資金を得た結果、武力衝突はまさますエスカレートして行った。

こうした事態を受けて、国連は2002年10月、世界的なダイヤモンドの企業であるデビアスや、南アフリカの鉱山会社アングロアメリカン(デビアスの親会社)、イギリスのバークレイズ銀行など欧米と南アフリカの85社が、コンゴの略奪を煽る行為を行ったと批判する報告書を発表している。

 しかしその後も、こうした利権の構造は改善されてはいない。2001年1月にローラン・カビラ大統領が暗殺された後、長男のジョセフ・カビラは内戦の収束をはかり、和平条約が結ばれたが、依然として内戦の火種はくすぶりつづけている。

 田中宇さんは「コンゴ内戦と同様、地下資源の存在が内戦を煽る状況は、世界のあちこちで起きている」と、「地下資源が煽るコンゴの内戦」(2003年6月2日)に書いている。すこし引用しよう。

<たとえばインドネシアでは、地元勢力が分離独立を求めて内戦が続いているアチェ州が石油資源のある地域だ。インドネシア政府はアチェの勢力に、地元の油田から得られる石油収入の70%を与える条件を出したが、その後東京で行われた交渉は決裂し、内戦が再発した。

 またインドネシアから独立した東チモールも、オーストラリアとの海峡に未採掘の海底油田があり、この油田があったことが、東チモールの独立問題にオーストラリアが関与し続けた一因だった可能性がある。

コンゴの南隣のアンゴラでは、冷戦中にアメリカや南アフリカが支援した反政府ゲリラUNITAの指導者を30年以上続けていたジョナス・サビンビ(Jonas Savimbi、昨年2月死去)が、盗掘した石油やダイヤモンド、象牙などの販売収入、それからアメリカなどからから得た軍資金などを合わせ、死ぬまでに合計40億ドルもの財産を蓄えていたと概算されている。

 UNITAは、コンゴと同様に石油やダイヤモンド、金などの鉱物資源が豊かなアンゴラ国内だけでなく、コンゴ領内でも活動していた。こんなに儲かるのなら、地下資源の豊富な国の反政府ゲリラの指導者になりたがる人間が多いのは当然だし、ゲリラの指導者たちが内戦を長引かせたくなるのも理解できる>

http://tanakanews.com/d0602congo.htm

 戦争が起きる要因はさまざまである。しかしその根底にこうした資源をめぐる利権が関与している場合が多い。豊富な地下資源が利権構造を生み出し、そこに欧米の企業が関与し、先進国の武器産業が介在して内戦を誘発し、長期化させている。世界を平和にするためには、こうした利権のからくりをどう変えていくか、これは先進国に暮らしている私たちも、自らの問題として考えていかなければならない。

 番組を録画したので、さっそく学年の総合学習の時間にこれを活用しようと思う。自分たちのふだんの暮らしが世界の戦争とどう結びついているか、これをきっかけに生徒たちがもっと身近な問題として戦争と平和の問題を考えるようになってくれればありがたい。

(今日の一首)

夜明け前散歩に出れば河原にて
秋雲白くほのかに見ゆる

 残暑がまだまだ厳しい毎日だ。この暑さを避けて、夜明け前の暗いうちに家を出る。そうして河原に来ると、しらじらと夜があけてくる。この時間だと風もまたいささかひんやりとして、散歩でほてった体をこころよく冷やしてくれる。


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