橋本裕の日記
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2006年10月08日(日) 風邪気味の演劇鑑賞

 金曜日の午後あたりから、くしゃみをしたり、悪寒を感じるようになった。昨日も体調がよくなかった。肩が凝り、頭痛もする。掲示板に連載していた小説「記憶の中の女たち」もお休みした。風邪を引いたのは、少し暑い夜が続いたせいで、掛け布団をはねのけて寝たのがいけなかったのだろう。つまり寝冷えをしたのだ。

 体調はよろしくなかったが、昨日は名古屋市の栄にある愛知県芸術劇場へ出かけて、劇団「かみふうせん」の第9回定期公演を鑑賞した。友人の工藤さんが出演しているので毎年これを鑑賞している。今年の出し物はとある料理学校の教室を舞台にした「いただきまあす!」(作:ふたくちつよし。演出:小澤寛)である。

<料理の基本は「頂く」って事なの。私たちの口に入るものは、塩と水以外、全て命のあったものです。私たちはご飯を食べるとき、いただきますって言うでしょう? 本来の意味はね、その食事のために使われたたくさんの命たちを頂きますって事>

 これがこの料理教室の講師である敏子先生の口癖である。彼女は料理への深い愛情をもっている。しかしそのやや古風なスタイルは時代にあわず、生徒も思うようにあつまらない。学校の経営難につけこみ、助手の政恵が敏子先生を追い出し、自分が講師になって、今風に学校を建て直そうとする。

 こんな料理教室に、それぞれ人生の問題を抱えた生徒たちが三々五々とあっまってくる。夫に捨てられそうになっている主婦、彼女は何とか調理の腕を上げて夫の愛情を呼び戻したいと思っている。それから妻に死なれて、自分で料理をつくらなければならない老人、会社で窓ぎわに追いやられ、家族にも冷たくあしらわれている淋しい男、親の愛情のない環境で育ち、おいしい家庭料理を味わった経験のない青年、そして自分本位を絵に描いたようなラブラブのカップルなど。

 料理教室の最中にも喧嘩やハプニングが堪えない。そしてクライマックスでの学校乗っ取り劇。助手の政恵が敏子の「スポンサーが押し売りをしようとしている高価な料理セットなど買う必要はない。料理は道具ではなく、心で作るものだ」という言葉を捉えて、一気に講師の解任を学院長に要求し、まさに実現しそうになる。しかし、生徒たちがここで立ち上がり、これを覆してしまう。その過程で、学園長と敏子先生が夫婦であったことなど、二人の隠された過去が明らかになる。

 やや暑苦しい「人間ドラマ」が1時間40分のあいだに凝縮して展開される。お互いが救いを求めて、エゴを剥き出しにして罵りあい、泣き叫ぶ人間ドラマは、舞台芸術ならではの迫力がある。折しも今年から学校の演劇部の顧問になったので、役者さんたちの生の演技は、とくに関心をもって眺めた。おおいに勉強になった。

 演劇が終わってから、「とてもよかった。感動して、涙が出そうになった」と工藤さんに告げて、握手をして別れた。工藤さんも生徒の一人として出演したが、とても重要なパートを熱演していた。会社のために自分を見失い、家族をも失ったサラリーマン戦士のなれの果ての悲哀が、最後に爆発する。泣き叫び、食材を片端から床に叩つける姿に、実は私は本当に涙を流したのだが、ちょっと恥ずかしかったので「涙が出そうになった」と彼に嘘を言ったのだ。劇場から出ると、不思議に頭痛が消えていた。風邪までいつか直ったようだ。

 今日の日曜日は岐阜の「信長まつり」がある。毎年、次女がこれに出ている。去年は信長の小姓役で馬を引いていた。馬術部の生徒がアルバイトでこれに毎年参加するのだという。娘は今年は「竹中半兵衛」の役で馬に乗るのだという。天気もいいようだし、親ばかぶりを発揮して、娘の颯爽とした武者姿をデジカメに収めようかと思っている。


橋本裕 |MAILHomePage

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