橋本裕の日記
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2006年01月23日(月) 病気をつくる医師たち

 毎年、この季節になると、職場で人間ドックの申し込みがある。私の知人は毎回のようにこれに応募して、そして毎回のように何か病気を発見する。私はこれに応募したことがない。

 この歳になって精密検査をすれば、何か悪いところが発見されるのはもう間違いのないことだ。発見されれば、不安になって治療を受けるだろう。最悪の場合だと、手術をしなければならないかもしれない。これがいやなのである。

 私の知人は高血圧の持病をもち、何度か脳ドックに入っている。私も何度かこれを薦められた。私はこれを無視していたが、去年、思わぬ視力障害に陥り、CTスキャンやMRIを体験するはめになった。視力障害の原因として、脳梗塞が疑われたからだ。

 さいわい、検査の結果、大したことはなかったからよかったものの、動脈瘤でもみつかっていたら、「さあ、手術だ」ということになっていたかも知れない。「手術はしないでください」と懇願しても、「いつ、脳の血管が破裂して死ぬかわかりませんよ」と言われたら、不安で仕方がなくなり、結局手術台に横たわるのではないだろうか。

 日本の医者は8ミリ以下の脳動脈瘤でも患者に手術をすすめる。統計によると、この手術で1パーセントの人が死亡し、5パーセントの人が重傷の後遺症が残って介護の必要な障害者になる。

 ところで手術をしない場合はどうだろうか。外国の統計によると、8ミリ以下の脳動脈瘤が1年以内に破裂する確率は0.05パーセント(2千人に1人)だという。20年でもやっと1パーセントだ。結論として言えることは、手術をしない方が安全であり、これが外国の場合の医学常識である。

 それではどうして日本は脳手術が多いのだろうか。それは脳外科医の数が5千人もいるからだ。人口が2倍以上あるアメリカでも脳外科医は3千2百人しかいない。単位人口あたりで見ると、日本の外科医の数はアメリカの3倍もいて、異常に多いわけだ。

 これだけの医者を養うためには、それだけ多くの病気がなければならない。病院は高度な医学機器を買い入れ、これを無駄にしないために人間ドックを多くの人に奨める。これを受ければ病気が見つかり、手術が行われるわけだ。早期発見、早期治療といえば聞こえは良いが、実態はどうだろうか。

 日本の医療の根本は病気を発見し治療することにあるが、これだと検査からはじまって、投薬、手術と、医療費はかさむ一方である。これで医療産業はもうかるのだろうが、国民がしあわせだと言えるのだろうか。

 西欧の国々では、そもそも病気にならない「ヘルシーピープル政策」が中心である。フィンランドは煙草の値段を数倍にすることで喫煙率を76パーセントから25パーセントに下げ、肺ガンは半減、心臓疾患にいたっては1/3に減らしたという。これだと医者や病院は売り上げが減って困るだろうが、政府は税金の無駄使いがなくなってたすかるわけだ。

 アメリカの場合でみると、厚生省が「ヘルシーピーフル政策」を打ち出した1979年には人口10万人あたりの心臓疾患493人だったのが、2002年には241人に半減している。脳血管患者は148人から56人とこれは1/3に減っている。フィンランドとほぼ同じ結果が出ている。

 これらの国ではガン患者も減少しつつある。これに対して、日本はこの30年間でガンは2倍以上もふえ、心臓疾患も脳血管疾患も増え続けた。医療費も32兆円になり、さらにこれが天井知らずに上昇し、国民の健康ばかりでなく、国の財政や家計さえも脅かすようになってきた。

 大切なのは病気を発見することではなく、病気をつくらないことだ。そして病気にならないためには、自ら生活習慣をあらため、健康をつくり出すことだ。「ヘルシーピープル政策」は自分で行えばよいのである。病気をつくり出す儲け本位の人間ドックにお金を使うより、毎日散歩をして英気を養っていたほうが、よほど健康にいいし、長生きができるのではないか。

(「小食のすすめ」を「何でも研究室」に掲載しました)
http://hasimotohp.hp.infoseek.co.jp/syousyoku.htm


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