橋本裕の日記
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2005年12月29日(木) 直接資本主義のすすめ

 現在、日本の銀行は未曾有の利益を上げている。たとえば三菱UFJファイナンシャルグループの利益はトヨタをおさえて日本一だ。この好調さを受けて、銀行の平均株価は総選挙を挟んで2ケ月で50パーセントも上がっている。

 しかし、一方で銀行の金利は全国平均で0.002パーセントにすぎない。これで利益があがらないほうがおかしい。低利の国債で運用してもかなりおつりがくる。つまりこの低金利政策のおかげで、本来は預金をしている国民にはいるべき所得がどんどん銀行に吸い取られているわけだ。

 預金に比べて、株式の配当金は平均で1パーセントをこえている。つまり銀行預金500倍である。さらにこのところの株高で、株価の値上がり益によるキャピタルゲインもある。政府は2年前から、預金に比べてキャピタルゲインへの課税を預金の半分の10パーセントに下げた。さらにネット証券の出現で、日本の株取引の手数料は世界一の安さだという。

 こうした好条件に支えられて、外資が日本買いに動いている。現在、日本の主要企業の株の30パーセントが外国の投資家の手にあると言われている。会社法が改正され企業買収も容易になった。内外の企業に敵対買収されないために、企業は発行株の時価総額を大きくしようとしのぎを削っている。これも株高に寄与している。

 アメリカの動向は不安含みだが、インドや中国の経済成長でアジア経済も元気になってきた。さらに日本の経済構造が内需型になっているという経済評論家の分析がある。こうした内外の要因が重なり、株価は来年度も値上がりするとみられている。そして、世界一の預貯金をもつ日本の裕福層もまた株式投資に食指を動かし始めている。

 これまで日本人は銀行などに貯金をする人が多く、株に投資する割合が小さいと言われてきた。しかし、国民が郵便局や銀行に貯金したお金も、国民が知らない間に、いろいろなところに投資されている。たとえば米国債だ。こんなもの買うなと言っても、一旦預けたお金の運用権は預金者にはない。

 銀行は消費者ローンにも投資するし、アメリカの武器産業にも投資する。郵便貯金もときにはむだな公共投資に使われたする。日本には80兆円の一般会計の他に、31にものぼる特別会計があり、それらの総額は460兆円、重複部分を除いても220兆円もある。これで国債が買い入れられ、特殊法人の事業費や人件費がまなわれている。

 こうした無駄遣いを許さないためにも、個人が個人の見識で直接、企業やファンドを選んで投資するほうがよい。いわゆる間接資本主義をやめて、直接資本主義に移行するわけだ。私はこれが成熟した資本主義の形ではないかと思う。この点でアメリカは日本や欧州の少し先を走っている。

 ただし、これからの個人株主に期待されるのは、「ただお金が儲かればよい」という投機型の投資行動ではない。企業の経営状態だけではなく、その企業がどのような理念を持ち、どのような社会貢献をしているか、たとえば環境問題や地域の福祉にどう取り組んでいるかなど、その実績を自分でみきわめることだ。そして短期の株価の上下に惑わされず、中長期に渡って、これとおもう企業を応援することだ。

 投資である以上、儲かることが前提だが、ただ儲かればよいというわけではない。同時にそれが優良な企業を育てることをとおし、社会的意義のあるものになっていることが大切である。投資家がそうした良質な倫理をもたなければ、資本主義経済は何度でもバブル崩壊の悲劇を経験するだろう。

 成熟した民主主義が成熟した有権者によって支えられるように、成熟した資本主義も成熟した個人株主がいて健全なものとなる。このことを、私たちは過去の苦い歴史から学ぶべきだろう。


橋本裕 |MAILHomePage

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