橋本裕の日記
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以前にNHKである人を紹介していた。その人は今は尺八の奏者として有名だが、以前はモーレツ・サラリーマンだった。ところがリストラで会社を首になった。傷心して家庭に帰ってくると、奥さんは励ましてくれるどころか、「離婚しましょう」と掌を返したように冷たくなったという。
それからその人の苦難の人生がはじまる。うちのめされて仏門に助けを求めたりしたが、やがて尺八にめぐり会い、それを吹くのが喜びになり、人生の支えになっていく。人々にも聴いてもらった。やがて、その独特の深みのある音色が人々の心をとらえていった。
以前、この日記に紹介した記憶があるが、いつの日記か調べるのが面倒なので、うろおぼえで書いたが、おおよそこうした内容の番組だったように思う。番組ではその人の実演もあって、尺八もいいものだなとしみじみ思ったものだ。
新聞や雑誌を見ると、株価も1万6千円台を回復し、景気もよくなってきているという。企業はバブル期を超える黒字を出し、ボーナスもいいらしい。しかし、東証に上場しているのはほんの一部の大企業である。
労働者の98パーセントは東証の株高とはあまり関係のない中小企業の従業員だ。そして家計の平均収入はこのところ連続して落ちてきている。非正規従業員の比率もうなぎ登りだ。その上、健康保険料の値上げや増税が待ちかまえている。国民の大半を占める人々は、今後いくら株が上がっても生活は苦しくなるばかりだろう。
私は日本がこうした状況になったのは小泉構造改革が原因だと考えている。しかし、これについてはすでに嫌になるほど書いたので繰り返さない。それよりも今後の生き方をどうするか、もうすこし現実的な問題を考えなければならない。収入が減り、リストラの不安のなかで、それでも人生を肯定的に生きていく智慧が求められている。
金銭や地位を得られないからと言って、それを嘆いていても仕方がない。それを嘆くのは、彼自身がそうした価値観のなかに生きているからだ。そうではなく、これを機会に、また別の世界に出会い、別の価値観で生きてみるのもよいのではないだろうか。
もうひとつ、身近な例をあげよう。知人のAさんは、去年、会社をリストラされた。会社では役員をしていて、奥さんによると月50万円ずつ貯金できるほどの高給取りだったそうだ。
会社の業績が悪くなり、突然リストラされて、Aさんは茫然自失。精神的な挫折感が大きく、鬱病のようになってしまった。しかし彼の場合は奥さんが賢くて、心の優しい人だった。もぬけの殻のような夫を何とか立ち直らせようと、奥さんはかなり気を使った。
幸い二人の子供たちも独立していたし、蓄えがあるので生活には困らない。去年から今年にかけて夫婦であちこち海外旅行をした。今年の春はカナダに長期滞在をした。そのときは妻や娘も一緒にこないかと誘われている。
奥さんのおかげでAさんの精神状態もおもむろによくなり、今はインターネットに海外旅行の写真を載せたりして楽しそうである。私のセブ語学留学の話に興味を覚え、さっそく資料を取り寄せ、来月にセブへ旅立つ予定だという。私が留学した英語学校で1ケ月間英語を勉強するのだという。
Aさんの場合は、リストラによって、思いがけず新しい人生が開かれた幸運な例である。高給をもらっていた会社を自主的に辞めることは不可能だったし、会社員の頃は別にもっとすばらしい人生があるなどと想像もできなかっただろう。しかしリストラされたおかげで、魅力的な世界に踏み出すことができた。これだから、人生は面白い。
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