橋本裕の日記
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2005年12月14日(水) 庶民株の楽しみ

 15年間続いた資産デフレの時代がおわったという論調が新聞や雑誌などのマスメディアを賑わしてきた。多くの経済評論家によると、これからは株価や土地、金などの価格が上昇する資産インフレの時代だそうである。

 たしかに株価でいえば、2003年4月28日に7607円だったのが、2年半で二倍以上の1万5千円を越えている。この数ヶ月でも20パーセント以上の値上がりだ。これはおもに海外の投資家の日本買いによるものだが、これからは資産倍増を夢見る国内投資家たちも続々参入してくると思われる。

 日本は外国から昨年度は6兆円の石油を輸入しているが、今年度はこれが1.5倍の9兆円にはねあがりそうだ。原油価格の上昇がやがて消費者物価に上乗せされる。実際の統計にもこれがあらわれている。インフレがはじまれば現金の価値は下がる。個人の金融資産が株や金にシフトしていくのは自然な流れだ。

 庶民派経済評論家の森永卓朗さんは、近著「庶・民・株!」(光文社)で、こうした状況はデフレから脱却したときの韓国経済とよく似ているという。韓国は国際機関の圧力でデフレの底に落とされ、アメリカなどの外資のハゲタカファンドに不良債権を安値で買いたたかれたあと、大胆な金融緩和政策が発動されて一気にデフレを脱却した。

 1998年9月から1999年7月のわずか10ケ月で株価は実に3.6倍にも跳ね上がった。これによって外資や国内のほんの一部の富裕層が大儲けをして、韓国のほとんどの企業の大株主が外国人になったり、一部の財閥の寡占化が進んだ。森永さんはこれが、これから日本で起こることだと解説している。

<昔は額に汗して一生懸命に働いた人がお金持ちになりました。松下幸之助さん、本田宗一郎さんなど、長者番付の常連者は、みな国民生活を改善するために懸命に努力し、働いた企業家でした。

 しかし、今は違います。巨万の富を得るのは、お金を右から左に流して、お金を働かせた人なのです。彼らがお金を稼ぐ手段は「資本」のです。資本を細かく分割して取り引きしやすいようにしたのが株式です。ですから私たち庶民は、彼らに便乗して株式投資で儲ければいいのです>

 かってバブルが華やかな時代に、カリスマ評論家として売り出していた長谷川慶太郎が「いまどき株をやらない人は世捨て人だ」と書いたことがある。10年一昔といわれるように、あの時代は国民の多くが熱に浮かれたようになった。その結果バブル経済が過熱した。統計を見てみよう。

 1970年に銀行に1000万円預けたひとは、20年間で3.7倍の3700万円を手に入れることができた。それではこの1千万円を株で持っていたらどうか。この場合は、16倍の1憶6千万円になっていた。

 もっともこのあと、バブルが崩壊して株価は1/3に下がった。うまく逃げた人は20年間で莫大な資産を手に入れることが出来たが、多くの企業や個人、銀行がダメージを受け、日本は長いデフレのトンネルの中に入った。

 デフレの時代は資産は資産を生まない。だからお金持ちにとってつまらない時代だと思うかも知れない。しかしデフレの時代に、お金持ちは安い値段で資産を買い占めることができる。そうしてやがてこれがインフレの時代に膨張する。だから、デフレとインフレの循環があって資本は巨大化するわけだ。

 お金を増やす法則は「安く買って、高く売る」ということにつきる。資産家が資産を増やす方法もこれしかない。安くなるのをじっと待ち、底値だと判断したら、買いにでる。そしてみんなが殺到して高値がついたところで売りに出すわけだ。

 そうすると経済は瓦解し、デフレの時代になる。そこで安くなった資産を買いあさる。こうしたお金持ちの投資行動が景気の循環を作りだしている。もしくは彼らは経済的、政治的力を使い、このシナリオを自ら演出することもできる。以上は森永卓朗さんの「庶・民・株!」の受け売りだが、森永さんはこうも書いている。

<このような庶民をいためつける社会になってしまった以上、庶民が採るべき選択肢は2つしかありません。清貧を貫き、ますます貧者に落ちていくか、それとも、知恵を絞ってお金を稼ぐか、もちろん私は後者を勧めます。そして庶民が、なけなしの資産を増やすためには、やはり少額投資から始められる株式投資しかないのです>

 額に汗して働く勤労者が高い税金をとられ、年金まで目減りしていくこれからの時代をどう生きたらよいのか。お金持ち優先のお金がお金を生む社会をどう生きたらよいのか、森永さんのいう「庶民株」も、こうした時代をたくましく生きていく有効な選択だろう。

 「庶民株」を、私も機会があればやってみたいと思う。これからは銀行や生命保険、郵便局などの機関投資家にすべてをまかせないで、自分で考えて投資することも必要だろう。そうすることで、経済の動きもよくわかる。

 国民が株式投資に没頭する時代にを私は正常な時代だとは思わないが、日本は小泉内閣の打ち出した一連の改革によって経済構造があともどりできないところに踏み出してしまった。「株をやらないやつは世捨て人だ」と言われる時代がふたたび到来したわけだ。

 しかし、株はいつか必ず下がる。そのとき再び大やけどしないように心がけなければならない。森永さんはこの点を強調して、庶民が株をするとき、絶対してはならないことがあるという。それは「株の信用買い」である。

 家や土地を担保にして「銀行」から借金をして株に投資するべきではない。バブルの時代には多くの人や企業がこれをやり、個人や企業が破産し、日本の銀行は不良債権の山を築いた。この教訓を忘れてはならない。株の投資はあくまでゆとりのある資金で行うことが大切だ。投資が投機になり、お金儲けだけが生きがいということになってはつまらない。

 これからのキャピタルゲインの時代を迎えて、所得格差はどんどん広がっていく。これはもはや避けようのない現実である。この現実をしっかりうけとめたうえで、私たち庶民は人生の原点を見失わないで、心ゆたかに生きていきたいものだ。


橋本裕 |MAILHomePage

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