橋本裕の日記
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2005年12月11日(日) 欠陥ビル建設の共犯者たち

 このところ毎日のように構造に欠陥のあるマンションやホテルがあらたに見つかり、ニュースになっている。破格の安さと、大理石を惜しげもなく使い、豪華なシステムキッチンで人気を呼んだ花形マンションが、実は検査書類が偽造されて震度5で崩壊するかも知れないという欠陥商品だった。

 先月の17日にこの問題が報道されるやいなや自民党武部勤幹事長が「問題がすべてあらわになれば(建設業界が)大変なことになる」と発言して政府の対応ぶりが批判されたが、いよいよ「大変なこと」になってきた感がある。

 武部幹事長が思わずもらしたように、問題の根は深い。構造計算書を偽造した姉歯秀次一級建築士(48歳)は、先月の24日、国交省の聴聞でこう応じている。

<建築主や施行業者など3社から「鉄筋量を少なくしてほしい」との圧力があった。強度を保てないことを説明したが、「他の設計事務所に替える」と言われ、家族のことを考えると引き受けざるを得なかった。同時に、取引先へのキックバックも行うようになった>

 姉歯は市川市の自宅にベンツとBMWを所有し、かなり派手な生活をしていたらしい。彼の無職の息子たちも国産の高級車に乗っているというから、「家族のため」というのは説得力が乏しい。

 一方、欠陥マンションを販売したヒューザーの小嶋社長だが、去年の3月に発行された「ヒューザーの100m2超マンション物語」にこう書いている。

<多くの人に「住みやすく、いつまでも住みたい」住宅を提供することが、私たちデベロッパーの役割であり、義務なのである。・・・

 現在、当社が提供するマンションの販売状況は良好である。その最大の理由は、「広いのに安い」からなのだろうが、その根底には。「三世代にわたる家族がゆとりをもって暮らせる永住型マンション」という私たちの提案が受け入れられたからにほかならないと自覚している>
 
 小嶋社長にはもっと他に自覚して欲しいことがあった。「広いのに安い」というマジックの根底にあったのは「安全性の軽視」であった。「永住型マンション」という言葉でこれをごまかそうとしている。

 同社の「グランドステージ磯子」は去年、日本住宅建設産業組合から「最優秀事業賞」が与えられている。殺人ビルを作り続け、儲け主義しか頭のなかった会社に相応しいのは「最醜悪偽造事業賞」ではないか。

 殺人ビルを建設した木村盛好社長(73歳)もまたカリスマとしてもてはやされていた。今年8月に発売された鶴蒔靖夫著「木村イズム『現場力』で勝つ!」にはこう書かれている。

<経済主義を排除し、儲けを最優先に考えない。仕事の報酬は(次なる)仕事という木村氏のむかし気質は、いまの時代には一服の清涼剤となるかもしれない>

 さて、検査を担当したイーホームズ社についても書いておこう。この会社は1999年に設立され、検査業務の民営化の波に乗って急成長をとげた。「安い、早い、何もいわない」というのがこの会社の営業方針だったという。

 よくも役者がそろったものだ。そしてこの役者達を結びつけた総合プロデューサーが総合経営研究所の内河健(71)である。彼は建築主に対し、設計・平成設計、施工・木村建設というセットを指定することが多く、平成設計は構造計算の約半分を姉歯事務所に外注していた。総研は短い工期で安価にビジネスホテルを建設する手法を売り物にして、手がけたホテルは250軒以上あり、業界では神様のような存在だったという。

 こうした無法者が「神様」と呼ばれ、やり手として世間でもてはやされていたわけだ。今回の耐震強度偽装事件は、日本社会全般におよんでいる利益優先体質のあらわれである。さらに、この風潮に公的機関までが押し流されていたこともわかってきた。偽装を見逃した検査機関の3割は自治体の検査部であり、理由としてはコスト削減による人手不足が考えられる。

 民間の検査機関の職員のほとんどが、民営化にともなう公的機関からの天下りだそうだが、民間企業の場合はさらにコスト意識があるから、状況は厳しい。しかも、民間の検査機関の大株主は、建設会社や設計事務所でしめられ、受注元が大株主だということも審査の公平さを損なわせる要因になっている。こうした構造的な問題を解決する必要がある。

 なお、今回の問題で大切なのは、欠陥建築を買わされた住民をどう救済したらよいのかということだろう。これに関連して、責任問題もしっかり考える必要がある。

(1)欠陥商品を売りつけた企業の責任
(2)市場の管理者としての国、自治体の管理責任
(3)欠陥商品を買った個人の自己責任

 この3者の責任が問われている。それぞれに応分の責任があるが、順位をつければ上のようになるのではないか。この他に、欠陥住宅の問題を放置してきた政治やマスコミの責任もある。

 住宅品質確保促進法によれば、欠陥住宅であることが分かったときは、10年以内であれば購入者は無条件で売り主を相手に、契約の解除もふくめて損失額の全額を要求できる。10年以上たっていても、売り主が違法行為であるということを意識していた場合はどうように引っ越し費用も含めて全額を請求できる。

 しかし、問題は売り主にそれだけの賠償能力があるかどうかである。こうした安価なマンションやホテルを販売している会社は、コストを下げるために、財団法人「住宅保証機構」が行っている「公的保険」にも加入していない。そのため、売り主に「倒産するぞ」と脅されると、購入者は弱い立場に置かれる。そこで(2)に基づいて、公的な補償の問題が起こってくる。

 公的補償については、住民救済という観点で行う必要があるが、これで企業や自治体の責任がうやむやにされてはいけない。これを機会に、国や自治体、企業の不正や怠慢を監視する「民」の側のシステムを作り上げていく必要がある。

 そしてもちろん(3)の個人責任もないわけではない。これからは私たち一人一人が経済性だけではなく、安全性ということをもっとしっかり意識して行動したいものだ。たとえば、住宅の購入に際しては、多少コストがかかっても公的保険に入っている会社の物件を慎重に選ぶのも必要なことだろう。国や自治体の責任は重いが、これからの時代は個人責任も重要になってくる。


橋本裕 |MAILHomePage

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