橋本裕の日記
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2005年11月22日(火) ロシアの透視少女

 フジテレビ系全国ネットで「奇跡体験 アンビリバボー」という番組を毎週水曜日に放送しているらしい。私は見ていないが、妻はときどき見ている。5月12日に放送された番組に、透視能力をもつというロシアの少女が出演した。

 大学の医学部に在籍するというこの18歳の少女は人体を透視する能力をもち、この能力を用いて患者の病名を次々と言い当てることができるのだという。番組の中でこの様子が紹介され、超能力の持ち主として有名になった。超能力少女の番組への出演は2回に及び、さらに視聴率がよかったので、これが再放送されたという。

 これにたいして、大槻義彦(早稲田大学名誉教授)さんが、「超能力ロシア少女ナターシャはデタラメだ」(週刊現代)と抗議をしている。超能力に批判的な大槻さんに対して、2回目の番組への出演が打診され、彼はこれを条件付きで了解したのだという。

 その条件とは、実際に彼が抱える病気の名前を少女に当てて貰うことと、その日、彼自身の人体に特別な仕掛けをしていくので、それを言い当ててもらうことだった。大槻さんは小豆大の真珠を呑み込んで番組に登場するつもりだった。

 少女が本物の超能力者だとしたら、胃袋の中の真珠が見えるはずである。もちろんこの仕掛けについては秘密にしておかなければならない。大槻さんの体内の真珠の存在は大槻さんしか知らないということでなければならない。少女に情報を与えてはいけない。

 フジテレビはこれを了承したものの、その後、プロデューサーが彼の病名と仕掛けを事前に報せてくれと言ってきた。その理由は、大槻さんがどんな病歴があるのか、体内の仕掛けがどんなものか事前に知らないと、番組の途中に具合が悪くなられると困るからだという。

 大槻さんはその心配はないとこれを断ったところ、「安全のため」ということで、番組への出演が一方的にキャンセルされた。これによって、大槻さんはロシア少女もまたこれまで無数にマスメディアにでっち上げられたニセモノの一人だと確信した。

 番組に参加したSF作家の山本弘さんも、「オンエアされた番組を見て驚きました。ナターシャが正解を外したところはほとんどがカットされている」と述べている。実際の番組では、少女は患者に様々な問診をしながら、頭から順番に見ていったという。

 頭や喉、肺、心臓・・・と次々と問診を繰り返すうちに、患部にたどりつくわけだ。番組ではこの試行錯誤の部分が省略されて、少女がぴたりと言い当てたように見えるわけだ。これは「編集のトリック」であって超能力ではない。

 大槻さんは、「こういう番組を信じた視聴者が神霊療法などを信じて被害にあうのです」と述べ、番組の反社会的性格を指摘している。これに対してフジテレビ側はこれを「演出の範囲内」だとして、「2時間ドラマで殺人事件を扱ったといって、殺人が増えるのでしょうか」と答えている。この番組の再放送は、大槻さんが放送局に抗議したあとに行われたという。

 公共性の高いテレビが、トリックによって視聴者に超能力が存在するかのように思わせてもよいものだろうか。テレビは所詮そのくらいだと突き放して考えることもできるが、視聴率を稼ぐために何でもありというのは社会的に問題である。いずれにせよ私たちは、メディアリテラシーを磨いて、嘘に騙されないようにしなければならない。


橋本裕 |MAILHomePage

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