橋本裕の日記
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2005年11月20日(日) 人をだますテクニック

 私は霊魂や神秘的な霊力を信じていない。奇跡は存在するかと聞かれれば、人生そのものが奇跡であり、生命という存在自体が神秘以外の何者でもないと答える。考えれば考えるほど、こんな奇跡はどこから生まれたのか不思議でならない。私は正直なところ「神様は存在するかもしれない」と思っている。

 しかし、テレビのワイドショーでもてはやされる超能力はどれもインチキだと思っている。早稲田大学の大槻義彦さんの講演を聴いたことがあったが、彼も「これまでたくさんの超能力者を研究したが、みんなインチキでした」と言っていた。

 もちろんある種の人たちは、人並みはずれた才能や能力を示すことはある。アインシュタインやモーツアルトはまさにそうだろう。しかし私たちは彼らのことを天才だとはいうが、超能力者だとは呼ばない。これがまともな考え方だと思っている。

 超能力は信じていないが、手品や奇術は大好きである。百円ショップで手品の種を仕入れてきて、家族に紹介したりもする。テレビで見たりするのも好きだ。先日も風呂上がりに何気なく居間のテレビを覗くと、テレビで人気の奇術師らしい人が、思わせぶりなパホーマンスの最中だった。

 ある街角の洒落た洋酒専門店の玄関のガラス戸に白い封筒が貼り付けてあって、その前に人だかりがしている。そこへ彼が現れて、「だれかこのカードを引いて下さい」と手にもったカードをその中の一人に引かせる。そのあと、封筒を開けると、カードと同じ文字が手紙に記されている。観客は「わあ、どうしてだろう」と不思議になる。

 もちろん、これは序の口だ。これを前座にして、彼は「物をガラスの向こう側に貫通させる」という奇術をはじめる。極めつけは彼自身がガラス越しに店の中に貫通するという奇術である。貫通した彼は内部からガラス戸を開け、手にしたシャンパンを差し出す。

 私はこのシーンしか見ていないが、その前に彼は電車の中で体を空中に浮かせ、一回転するというパフォーマンスをしてみせたそうだ。電車に乗り合わせた乗客がこれを見て驚愕する様子がテレビに写し出されたという。以下は妻と私の会話である。

「ほんとうにびっくりしたわよ」
「トリックがあるはずだ」
「でも、みんなの見ている前でよ。どうやったらできるの」
「それがトリックなのだよ」
「どういうこと?」
「彼が僕の前でその業をやってみせたら驚くよ。しかし、僕以外の人間の前でやってみせても驚かないね」
「つまり、見物人は全員ぐるなわけね。やらせなわけね」

 視聴者はテレビがそんな大それた「やらせ」をするはずがないと思うだろう。そういう常識や良識を逆手に利用することで成り立つのがトリックの世界だ。トリックは分かってみれば単純なものだ。そして人々は単純なものほどわからない。まさかそんな幼稚なことはあるはずがないと勝手に思い込む。詐術師はこの思いこみを利用するわけだ。

 ヒトラーが小さな嘘はすぐにばれるが、大きな嘘はなかなかばれないと言った。これはトリックの神髄をいいあてている。このトリックを使って人々を騙すことを商売にしているのが、いまはやりの評論家や政治家、そして彼らと共生関係にあるマスメディアである。彼らの権威にだまされないようにしよう。


橋本裕 |MAILHomePage

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