橋本裕の日記
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2005年11月18日(金) 日本縦断 徒歩の旅

 教室で旅の話しをしたら、Tさんが「私も旅が好きです」と言って、石川文洋さんの「日本縦断 徒歩の旅」(岩波新書)を貸してくれた。石川さんはもと朝日新聞のカメラマンで、ベトナム戦争やアフガン戦争などを取材した人である。

 この人が65歳の記念に北海道の北から沖縄の南まで3300キロを徒歩で歩く計画を立て、これを実行した。この本がそのその記録である。冒頭の文章を紹介しよう。

<歩いている間は誰にも束縛されない自由時間のように感じる。歩いている時は夢や空想が広がる。だから歩くことが好きだ。この気持は中学の頃に生まれたと思っている>

 石川さんの一家は彼が5歳の時に、沖縄から本土に移住した。戦争の最中のことだった。その後、沖縄を戦争の惨禍が見舞った。戦時中も戦後も彼の一家は極貧生活だったという。彼は中学を卒業するまで朝刊と夕刊を配り続けた。そして定時制高校に入学したのだという。

 1964年、26歳の時、無銭旅行を企ててアメリカに渡った。翌年にはサイゴンに行き、政府軍に同行してベトナム戦争を体験した。45歳で15年間勤務した新聞社を辞職し、アフリカへ行って内戦の様子を取材した。

 その後、サラエボやインド・パキスタン、アフガニスタンと、最前線での取材が続く。戦場で負傷して命拾いをしたこともあったという。石川さんが日本縦断をしていた2003年にはイラク戦争が勃発している。石川さんにはイラクに行きたい思いもあった。

<イラク戦争が始まった時、現地へ行かなければと思った。しかし、長年の夢である徒歩の旅を優先させた。歩いている時もイラクのことが気になっていた。現地の状況は悪くなるばかりである。

 日本人を含め民間人の人質事件や拘束は心が痛む。時期を見てイラクへも行き、アフガニスタンも再訪したい。ベトナム、カンボジアの現状も取材したい。楽しみながらの徒歩の旅と報道を両立させながら、人生の旅を続けたいと思っている>

 日本縦断の旅で石川さんは日本海ぞいの道を選んでいる。芭蕉ゆかりの奥の細道や良寛の生まれた出雲崎、私が好きな金沢や故郷の福井や若狭小浜のことも書かれていてうれしかった。石川さんが宿泊して一番よかったのが小浜市の田烏にある民宿「浜乃家」だそうだ。

<今回の旅のナンバーワンである。刺身はイシダイ、アカラ(キジハタ)、それぞれ一匹分とイカ、アマエビが皿に盛ってある。カニ半身、ギジハタ煮付け、天麩羅ははエビ、キス、シシトウ、ナス、サツマイモ、シソの葉。サザエ二個、ホタテ一個もついた。一泊二食付きで7000円。部屋、洗面所も清潔である。素朴な宿のご主人と奥さんが良い>

 65歳の石川さんは旅に出る前はコレステロール値が異常で、高血圧も180を超えていて降圧剤を飲んでいたという。そんな体で3300キロもよく歩いたものだ。しかし、この徒歩旅行で体重が73キロから62キロに減った。血圧は142に下がり、コレステロールも平常値にもどったのだという。

 長年の夢であった日本縦断の徒歩旅行は、石川さんに健康という人生最大の宝をも恵んでくれた。石川さんは今度はスペイン最南端のアルヘシラースからヨーロッパ各国を放浪し、デンマークまで行ってみたいそうだ。さらにアフリカ横断も夢見ているという。石川さんの本を読んでいると、元気が湧いてくる。


橋本裕 |MAILHomePage

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