橋本裕の日記
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2005年10月10日(月) なぜ英語を勉強するのか

 まだCPILSで学び始めたばかりの頃、スタディ・ルームで緊張しながら勉強していると、韓国の若い女性が「Excuse me . Are you a xxxxx」と話しかけてきた。眼の綺麗な色の白い美しい女性だった。私は「Sorry?」と答えた。女性は再び質問を繰り返したが、私にはよく聞き取れない。「xxxx」の部分が「ヤカン」と聞こえたり「ピン」と聞こえた。

 私がノートを差し出すと、女性はそこに綺麗な文字で「Are you a Japanese?」と書いた。何だ、「Japanese」かと私は納得した。韓国の人と話していると、ときどき「J」や「P」や[F」の発音が聞き取れないときがある。

 私が大急ぎで「Yes」と答えると、女性はいくつか質問をはじめた。それがまたほとんどききとれなかった。私が「Sorry?」をくりかえしていると、女性は手にしていたペーパーを私の目の前に広げた。そして「Prease」と言って頭を下げた。

 どうやらそれは彼女の宿題のようだった。日本人を見つけて、いくつか質問し、それを書き留める必要があるらしい。私は直接その紙に答えを記入することにした。その中に、「なぜあなたはこの学校で英語を学ぼうと思ったのですか」というのがあった。

 私は少し考えて、「To make friends」と答えを書いた。そして思わずその女性を見ると、彼女の生真面目な表情が少し崩れて、「Me too」とつぶやいた。最後は「thank you」とほっとしたように微笑んで離れていった。

 その後、何度か食堂やスタディルームで彼女を見かけたが、お互いに声を掛けることはなかった。ただ目が合うと、彼女はいつもにっこり会釈してくれた。私は彼女のひどい発音を思い出し、それからふと、もう一人こんな美人の娘がいたらいいのにと思ったものだ。

 さて、先日、長野県上田市で教師をしているMさんからメールをいただいた。私の日記を読んでの感想がていねいに書かれていた。山登りが好きだというMさんの律儀で誠実な人柄がしのばれる文章だった。

 一昨日、私はMさんに返信を書いた。その中で、私は「なぜ、英語を勉強するのか」について、少し詳しく書いた。ここにその全文を引用しておこう。

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 M様へ

 お便りありがとうございました。M様は「同じ年齢ですが,私にはとうてい先生のようなエネルギーはありません」と言われますが、エネルギーがないのではなく、日頃の教育に熱心にとりくんでいらっしゃるからだろうと思います。

 私も去年まではとても海外に行くゆとりはありませんでした。休日も部活の指導にあけくれ、なかなか自分の時間をもてない毎日でした。転勤して55歳になってようやく得たゆとりです。松崎先生もいまはお忙しくても、またゆとりができれば、新しいことにチャレンジをする勇気も湧いてくるのではないでしょうか。

 私は今日から3連休です。生憎の雨ですが、すこしゆったりした気持で、久しぶりに何か短編小説でもかいてみようかと思っています。筋立ては頭のなかにできているので、あとはこれをどう文章に創り上げていくのか、楽しいようで、これもまたかなりエネルギーを使います。うまくかけたら、またHPに載せますので読んで下さいね。

 セブ島留学は私にとってほんとうに実り豊かな体験だったと思います。英語の勉強を始めようと思ったのは、12年ほど前、親しくしていた英語科のT先生とAETのイギリス人教師と三人で喫茶店に入ったとき、私はほとんど英語を口にすることができなくて、口惜しい思いをしたことがきっかけでした。

 ジョージというその英国青年は、オックスフォード大学を卒業した教養豊かな好青年で、父親が外交官だったため、さまざまな国に住んだ経験もあり、親切で思いやりのある本物のイギリス人紳士でした。日本の文学や哲学にもたいへん深い関心をいだいているらしく、もっと日本の文化を知りたいということで英語教師として日本に滞在していたのです。

 T先生が私のことを、哲学や文学に造詣が深いなどと持ち上げたので、彼も私との会話を楽しみにしていたらしいのに、私はそのときも、その後も、同じ職場にいてほとんど何も語ることができませんでした。私が口にできるのは当たり障りのない社交辞令くらいです。このときほど国際語である英語で自己の考えを表現できたらと、切実に考えたことはありませんでした。

 その翌年、私はそれまで自転車で通っていた近くの高校から、自家用車で通う遠くの高校に転勤になりました。そこで、私はさっそくNHKラジオの「英語会話入門」を録音して、通勤の途中にテープでききはじめました。

 さいわい遠山顕先生のこの番組がとてもたのしく、英語はよく聞き取れないにもかかわらず、それから毎日毎日聞き続けました。テキストは買わず、遠山さんが男女二人のネイティブスピーカーと交わす気の利いた会話をただ楽しみながらバックグラウンドミュージックのように聞き流していただけです。とてもテンポや雰囲気がよく、落ち込んでいたときにも元気がもらえるトーク番組でした。

 そうしているうちに、英語がだんだん耳になじんできて、好きになってきました。そうすると、もっと本格的に勉強して、自分でも何か話したくなります。まず考えたのが外国でのホームステイや短期留学でした。

 しかし、忙しい上に、二人の娘が大学に進学したりして金銭的にもゆとりがなかったので、これは夢のまた夢でした。今年になって、上の娘が自立し、学校を変わることで、ようやくこの夢が実現しました。10数年ががかりで実現した夢です。

<外国で,色々な考え方の違った人達と違った風土の中でふれあったら,やはり今の自分の世界へ新鮮な風が吹き込むような,伸び伸びした気持ちになることでしょうね。そんな精神を少しは,私も身に付けないと,定年に向かってこれからだめですよね。>

 これはM様の言われるとおりだと思います。英語の学習を通して、今回は私は多くの人々と知り合い、心を通わせることが出来ました。それが私の心をいきいきと甦らせてくれました。

 定時制高校には60歳、70歳でも若々しく学んでいる人たちがいます。私も彼らに負けないくらい、これからもたくさんのことを学び、たくさん心の通い合う友人を作り、人生に前向きにチャレンジし続けたいと思っています。M先生も人生はまだまだこれからです。ご健闘をお祈りします。

       2005,10,8   橋本裕

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