橋本裕の日記
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| 2005年09月29日(木) |
モアルボアルへの旅(1) |
セブ島西海岸のリゾート地モアルボアルへはセブ市のサウス・バスセンターからバスで2時間半だと観光案内に書いてある。さっそく地図でサウス・バスセンターを探したが見当たらない。ままよと、CPILS(学校)からタクシーを拾った。
タクシーの運転手はスポーツマンタイプの感じの良い青年だった。ちなみに「モアルボアルまではいくら?」と訊いてみると、「1500ペソ(3000円)です。行きましょうか」いう。「いや、そんなにお金を持っていません。私は貧乏な学生です」と答えると、運転手は残念そうな顔をして笑った。バスセンターまでは65ペソだった。70ペソを払い、「keep change」と言ってタクシーを降りた。
バスターミナルへきて途方に暮れた。バスの発着所が無数にあり、とにかく雑然としていてわけがわからない。ひとめぐりしてみたが、案内所も乗り場案内の掲示も見当たらない。それでも机に向かっている職員らしい人物を見つけて「Excuse me」と声を掛けてみた。
モアルボアル行きのバスに乗りたいと告げていると、近くにいた男がすかさずよってきて、「私が案内しましょう」という。目つきがあまりよくないので心配になったが、机の前の男が「Follow him」というので、ついていった。
その男に教えられたバスに乗り込んだ。乗り込むとき5ペソ硬貨を渡すと男は嬉しそうに笑った。日本では走っていそうもない大型のおんぼろバスである。すでに乗客でいっぱいだった。前の方にひとつだけ席が空いているのを見つけて、そこに坐った。
となりの青年に「このバスはモアルボアル」に行きますかと確かめると、「ええ、行きます」ときれいな英語で答えてくれた。私はほっとして、次々と質問した。
「モアルボアルは終着点ですか」 「そうではありません。その先にもう一つあります」 「モアルボアルまでどのくらいかかりますか」 「約3時間です」 「あなたはどこで降りるのですか」 「バリリです」 「そこはモアルボアルの手前ですか」 「そうです。バリリの二つ先がモアルボアルです」
青年はパソコンを抱えていた。「ビジネスですか」と訊くと、「ええ、ビジネスです」と言って白い歯を出して笑った。それからお互いに自己紹介をし、個人的な会話が続いた。青年は結婚していて息子が一人いること、ソングという名前だと言うので、私も「シンです」と言うと、親しげに握手を求めてきた。ソングは32歳だという。
私はセブに来て、日本人以外に少なくても50人と英語で会話することを目標にしていた。すでに私は40人近くのフイリピン人や韓国人の顔が浮かんだ。この旅でできれば10人ほどのフイリピン人と英語で話してみたいと思っていた。話好きのソングと隣り合わせになれたことはうれしかった。
バスがセブ市内を抜けるのに1時間ほどかかった。土曜日だというのに大変な渋滞である。ジプニーがたくさん走っているので、バスはその間を縫うように走る。そしてバス自身も停留所で急停車する。明け離れた窓から容赦なくなま暖かい排気ガスが流れ込んできて、息苦しい。
途中で車掌が切符を売りに来た。「モアルボアルまでいくらですか」ときくと、「74ペソです」という。タクシーの1500ペソの20分の1である。この安さなら文句は言えない。100ペソを渡すと切符をくれたが、おつりをくれそうな気配はなかった。チップと思えばよいと思ったが、ずいぶんあとになってお釣りを持ってきた。
セブ市を抜けると、三車線あった道路は二車線になり、交通量はぐっと減った。排気ガスのかわりに、新鮮な田舎の空気が吹き込むようになり、暑さも退散して心持ちがよくなった。くつろいだ気分になり、車外の風景やバスの内部を観察するゆとりもできた。隣の青年との会話も弾んだ。
バスに乗って2時間半を過ぎた頃、バスは少し賑やかな町に到着した。そこがバリイの町らしく、青年が立ち上がり、「Thank you, shin 」と別れの握手を求めてきた。私も「Thank you 」と握手を返したが、相手の名前までは出てこなかった。
そこでバスは10分ほど休憩してから走り出した。相変わらずバスは満席に近いこみようである。こんど私の隣りに坐ったのも青年だった。「学生ですか」と訊くと、「いえ、高校を卒業して、いまはセブで働いています」という。23歳だと言うことだった。
「どこまで行かれるのですか」と訊くと、「モアルボアルまでです」という。これで私はすっかり安心した。「私もそうです」というと、「それでは一緒におりましょう」と言ってくれた。あと50分ほどでモアルボアルだという。
青年はセブ島南部のアルコイというところの出身だという。そこに実家があり、ときどき帰っているが、今日はモアルボアルにいる恋人に会いに来たのだという。「恋人を愛しているのか」ときくと、「ええ、もちろん」と少しはにかんだような笑顔を見せた。この青年の英語もほとんどなまりがないので聞き取りやすかった。
「What make you go to Moalboal? 」と訊かれたので、「sightseeing」と答えた。 「ホテルのとまるのですか」 「いえ、日帰りです。ビーチまでトライシクルで30分ほどだと聞きましたが?」 「ええそうです。バスを降りるとたくさん待ちかまえていますよ。私が選んであげます」 「それはありがたい」
バスの窓からときどき青い海が見え、沿線の粗末な造りの家々からは田舎の人々の暮らしが想像できた。子供も大人も裸に近い姿で家の前や道端の木陰に腰を下ろしてのんびりしている。休日のせいばかりでもないのだろう。そこにはセブ市の喧噪とは違った別のゆったりとした時間が流れていた。やがて、バスはモアルボアルに着いた。
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