橋本裕の日記
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GMが90万人ほどいる従業員から2万5千人ほどリストラしたいということで、労働組合と交渉にはいったという。トヨタなど日本勢の業績が好調な中で、GMの不調が目立つ。
GMはこれまで組合がしっかりしていて、経営者もリストラなどに消極的で従業員や退職者に対しても手厚い年金制度や医療保険を施してきた。このため日本車とくらべて、車一台につき16万円ほど価格が割高になっているという。このコストを削減するには、保険制度を見直し、さらに大幅な人員削減をするしかないということだろう。
かってアメリカのしにせの企業は、どこも高い企業倫理基準をもっていた。たとえば、IBMの場合は「経営理念」として冒頭にこう書いていた。(現在はどうか、確認してない)
<企業が成功するには、その基礎に健全な理念がなければならない。世界のIBM社員は意志決定や行動の際には、常にその理念に従うべきである>
その理念のなかで、<ビジネスを行ううえで、すべての人に公平かつ公正に接すること>をあげている。そして次のように「公正な取引」の条件を規定している。
(1)取引先の選定は、製品やサービスの質、相対的な信頼性、価格を考慮したうえで行う。 (2)取引契約交渉後は、取引先とIBM双方の正当な利益を考慮し、誠意をもって契約を履行する。 (3)取引先が過度にIBMに依存するのを避ける。
こうした企業倫理条項に忠実に企業活動をしてきたIBMには、日本企業のような系列とか下請けといった生産形態はゆるされない。IBMは倫理綱領でこうしたものはアン・フェアで、倫理上許されないものだとして自らに禁じたわけだ。
これは1980年代まではアメリカの大企業はどこも堅持していた倫理だった。こうした倫理にのっとって、公正な競争をするというのがおよそ1980年代までのアメリカだった。企業活動の前提に倫理が生きていたわけだ。こうしたアメリカの企業倫理を破壊したのが日本企業だった。内橋克人さんは「尊敬おく能わざる企業」(光文社)のなかで、こう書いている。
<コミュニティ・リレーション活動などによって、熱心に地域に貢献し、そのために費用と労力を割く企業と、それをやらずに、すべてを競争力一本に振り向ける企業との間には、当然、製品のコスト競争力をめぐって大きな格差が生まれるだろう、ということだ。
そして、このようにして成り立っている社会に、ある日、自社の「生産条件」強化一本槍で邁進する企業が出現し、従業員も経営者も、一致団結、脇目も振らず「勤勉の哲学」を発揮して生産に当たれば、その企業の市場競争力は抜群のものになり、やがてはその企業が市場を制覇するに至るかもしれない。
競争力を獲得するまでのプロセスをみて、社会にそのような企業活動を非難する声があがると、「いいものを安くつくり、安く売ってどこが悪い!」「消費者は喜んでいるではないか!」「いいものを安くつくれないそっちのほうが悪いんだ」などと叫んで開き直ったとしたらどうだろうか。率直にいってこれが、これまでの日本流をしめす姿の一つであった。・・・
日本のように採用に当たって学歴を問い、テストを施し、有名高校、著名ブランド大学のみを選んで新入社員を青田買いし、ときには軍隊式の教育・訓練を施せば、多少の努力と引き替えに目的はやすやすとかなえられよう。
アメリカがその道を選ばず、かくも厳しく差別を禁じるのは、一企業の生産性ではなく、他民族国家・アメリカ社会全体の「生存条件」を維持し、高めることに最重要課題をおいているからだ>
内橋克人のこの本は1991年の出版である。1980年代を通じてアメリカ企業は大きく変化した。GMの今回の大量リストラは、この変化を完成させ、古き良きアメリカの息の根を止めるものに違いない。
8/3の朝日新聞の社説は日タイFTA(自由貿易協定)について批判している。日本政府が農作物の自由化をみとめなかったので、工業製品の自由化が進まなかったと政府を批判する内容である。
<工業製品で高い生産性を誇るのに、農業の改革は一向にすすまない。日本はこの落差に足をとられ、得意の分野でも小粒の合意に甘んじている。・・・
日本は、世界に広がるFTAの潮流に乗り遅れている。内容もスピードも、ともに追求する自覚を持ちたい>
朝日新聞を読んでいると、ときどき日経新聞の顔負けのいさましい社説に出合って驚かされる。世論の右傾化にともない、最近は朝日新聞はずいぶん発行部数を落としてきていると聞く。朝日新聞もたぶん生き残りに必死なのだろう。そうしたとき、まっさきに切り捨てられるのが企業倫理である。戦争中の朝日新聞の醜態をみればよい。
もっとも8/2の朝日夕刊の「経済気象台」はすこぶるまともなことが書いてあった。
バブルころ、筆者のところにある大手銀行の支店長がやってきて、「何も言わずに黙っておカネを借りてくれ」と頭をさげたそうだ。こうしてばらまいたお金が結局不良債権になった。
また住宅ローンには「ゆとり保証」という制度があって、借りた当座は返済が少なくてすむ。しかし、このゆとり期間が終わってからが大変なわけだ。バブルがはじけて、大量にローンが焦げ付き、これも不良債権になった。
同様なことが、今空前の不動産ブームのアメリカで起きているという。しかも銀行にお金を借りにいかなくても、すぐに借金ができるクレジットカードが毎週のようにダイレクトメールで送られてくるという。
支店長が頭を下げて借り入れを迫る日本に比べて、米国はカードをばらまいているのだから、その無軌道・無責任ぶりは日本よりはるかに上手である。しかも、「ゆとり補償」の制度までついているそうだから恐ろしすぎる。世界経済をリードしているアメリカが、日本の轍をふまないように祈るばかりだ。
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