橋本裕の日記
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| 2005年08月26日(金) |
インドに見る食料危機 |
世界の農業大国といえば、アメリカと中国、インドである。今日は10億の人口をかかえるインドの場合をみてみよう。NHKの番組「涸れ果てる大地」では、インドの穀倉地帯のパンジャブ州を襲う危機が描かれていた。
この地方の年間降水量は日本の1/3以下の500mmである。本来なら農地として適さない乾燥地帯なのだが、2000万本の井戸にたえまなく電動ポンプが駆動して地下水を汲み上げ、これで大地を潤して小麦や米の栽培が行われている。インドはこうした近代農法で10億人の食料需用を満たし、食糧自給率100パーセントを誇ってきた。
ところがこの命の綱ともいうべき井戸が次々と涸れはじめた。原因はアメリカと同様で、地下水の過剰な汲み揚げである。このため農家が破産し、パンジャブ州のある地方では200人以上の自殺者をだし、新聞の一面を占領する社会問題になっている。
裕福な農民は井戸を深く掘ることで水を確保しようとしているが、50メートルを越すと地下水の塩分濃度が上がる。このため塩害で耕地は不毛の荒れ地になる。塩で干からびた白い荒涼とした土地に肩を落として佇む農夫たち。インドの穀倉地帯に起こりつつあることは思いのほか深刻である。
農民の大量自殺は、やがて国民の食糧危機による大量死を予想させる。そしてこれは世界の食糧危機に結びつきかねない。今世界的な規模で農地が涸れようとしている。それではどうしたらよいのか。この危機を克服する知恵はあるのだろうか。
NHKの番組では最後に、ラジャンスタン州の農民たちのとりくみを紹介していた。この地方は第二次大戦後急速に農地拡大と森の伐採が進んだ。しかし20年ほど前にはすっかり井戸が涸れて、農業が崩壊していた。
その頃この地方を訪れたラジンドラ・シンドラさんは、村々の惨状に心を痛めた。そしてある村の長老から、昔はジョハドと呼ばれる人造沼がいたるところにあったことを知らされた。そこで井戸水の枯渇がこの沼の消滅にあるのではないかと考えた。
このあたりも年間降水量が400mmの乾燥地帯である。しかしジョハドがあれば雨季に降った雨はそこに溜まり、やがて地底にしみこんで地下水源になる。これまではこうした地下水源で井戸が潤っていたのに違いない。
そこでシンドラさんはジョハドを復活するべく立ち上がった。村人の協力をえて、彼は次々とジョハドをつくった。この20年間に彼と彼の仲間の作ったジョハドは、1500村で8500にもなるという。
シンドラさんは「村人たちが池作りに参加することで、村の水は自分たちが力を合わせて守らなければならないと考えるようになった。住民と水との絆を大切にし、水の管理に住民の一人一人が係わることが大切だ」と述べていた。
池を作り始めてから、10年ほどして井戸に水が満ちるようになった。水位が20メートルもあがり、涸れていた井戸が次々に復活しはじめた。こうして緑の農地が村々に復活した。井戸端には、水とたわむれる子供たちの笑顔が戻った。このさわやかで明るい映像に、地球の将来への燭光と、希望を感じた。
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