橋本裕の日記
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私たち日本人は食料の6割を世界から輸入している。ところがその輸入先の農業大国であるアメリカや中国、あるいはインドでも、将来の食料生産を脅かすような深刻な事態が進行している。大地の水が涸れ果てようとしているのだ。8/21(日)に放送されたNHKスペシャル「ウオータークライシス、水は誰のものか」の第二回「涸れ果てる大地」はこの危機を描いていた。
1900年から2000年までに世界の人口は4倍になった。これだけの人口を養うために食料が増産された。そのために年間降水量が500mmに満たない乾燥地帯にも川から水が引かれたり、地下水が汲み上げられて農地が広がった。こうしてこの百年で農業用水の使用量は6倍になった。
ところがその川や地下水源がどんどん涸れてきている。川の水は都市と農村で奪い合いになり、結果として農村は高額の補償金とひきかえに都市に水を譲り、農地を放棄する動きが出てきた。
中国の黄河では川の水が途中でなくなる断流という現象が起こっている。アメリカのグランドキャニオンをつくったコロラド川も、いたるところで断流が起こっている。あの大河がなんと途中から小川のようなかぼそい流れになってしまうのだ。
カルフォルニア州の穀倉地帯であるインペリアルバレーも年間降水量が100mmという乾燥地帯である。コロラド川の水を利用して農業を行ってきたが、最近、この水の一部をカルフォルニア州第二の都市サンディエゴに20億ドルで売ることにした。保証金を得て耕さなくなった土地は荒廃し、害虫が発生して、付近の農地に被害を及ぼす恐れがあるという。
川の水には限りがある。そこで地下水源にたよることになる。たとえばアメリカ中部にはオガララ帯水層という巨大な地下水源がある。数千年におよぶ雨水4兆トンがここに貯えられていて、カンザス州の穀倉地帯ではこの地下水を汲み上げて大規模な灌漑農業をしている。
センターピポットと呼ばれる200メートルものアームがスプリンクラーで水を撒きながら回転する。しかし、こうした農法で使われる水の量はバカにならない。とくにトウモロコシは面積当たり小麦の3倍もの水を必要とする。このため地下水の水位が、毎年3メートルずつ下がってきているという。
ところによっては90パーセント以上の地下水を使い果たした地域も出てきた。カンザス西部地下水管理組合の代表を務めるキース・レビンさんは、NHKのインタビューにこう答えていた。
「私たちは孫や曾孫に残すべき大量の水を使ってしまったのです。この地域の農業に明るい未来を描くことはできません。トウモロコシの栽培を押えるには、法律で規制するしかありません」
しかし多くの農民は規制には反対である。耕地面積あたりトウモロコシは小麦の3倍の利益を生む。地下水は実質上タダだから、ビジネスの論理に従えば、利益率の高いトウモロコシになる。
農民の一人はNHKの番組の中で、「まだあと10年や20年は使えるでしょう。水があるかぎり、トウモロコシ栽培を続けます」と悪びれることなく発言していた。多くの農民にとって、20年先より現在の収入が問題なのだ。
しかし、おなじカンザス州の農夫でも、伝統的なドライランドという農法で小麦を栽培し続けている人もいる。この伝統的な農法では、天然の降水だけをあてにして、毎年土地の半分だけしか耕地として使わない。
半分の農地は一年間休耕地にして、翌年の作付けのために雑草を抜きながら、ただ雨をしみこませるだけにしておく。この農法だと、土地は半分ずつしか使わないから、収穫も半分になる。しかし、孫や曾孫の代までも末永く農業を続けることができる。
地球は水の惑星だといわれるが、そのほとんどは海水だ。降水によってもたらされる淡水は全体のほんの一部である。私たちは貴重な淡水を、1割を生活用水に、2割を工業用水に、残りの7割を農業用水として利用している。
世界の穀倉地帯の多くは乾燥地帯にある。そしてさんさんと降り注ぐ日差しと、大量の地下水を使って食料を生産している。そしてそうして生産された食料を、私たち日本人は大量に輸入している。雨に恵まれた湿潤な国に住む私たちが、実は食料のかたちで、降水量の少ない国の大量の「水」を輸入しているわけだ。
ちなみに小麦1キロを生産するために必要な水は2トン、牛肉1キロを生産するのに必要な水はその2万倍の20トンだという。地球の大地が涸れ果てようとしているとき、日本の食料消費や食料生産のありかたはこれでいいのか、反省してみる必要がある。
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