橋本裕の日記
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2005年08月18日(木) 民営化で財政赤字は解消するか

 少し前から、週刊誌などで公務員バッシングがさかんに行われていた。いまや公務員のイメージは最低である。いまだに年功年功序列で高給を貰いながら、リストラの恐怖や競争もないのでろくな仕事をしない。税金の無駄使いをなくし、財政を立て直すには公務員をリストラするに限る。郵政民営化を多くの国民が支持しているのも、こうした公務員に対する負の感情がその底流にあるのだろう。 

 客観的にデーターを見てみよう。まず、公務員の数だが、これは日本が先進国で最低である。総務省の統計によると、人口千人あたりの公務員数は日本が35人なのに対して、アメリカ80人、フランスは95人などになっている。麻生総務大臣は経済諮問会議の席上、「諸外国と比較しても極めて小さな政府を人件費の上でも実現している」と発言していた。

 誤解のないように付け加えておくが、ここでいう公務員には郵政公社のような公社や特殊法人の職員や政府系企業の従業員もすべてふくまれている。これをみても、日本の公務員は外国に比べて数が多いわけではない。これは社会消費が他の先進国の半分しかないことにもあらわれている。つまり、日本は教育や福祉といった公共サービスがとてもお粗末な発展途上国なのである。

 それでは給料の面ではどうだろう。たしかに国家公務員の場合は、従業員数5人の小企業にくらべれば、平均で6万円ほど高い給料をもらっている。しかし、500人規模の中企業にくらべれば、10万円低いことになる。大企業に勤めるいわゆるエリートサラリーマンとはくらべようもない。これも誤解にないようにつけくわえておくが、ここで給料というのはさまざまな手当も含めた総収入である。

 もちろん、私は公務員の仕事に無駄がないとは思わない。仕事が効率的かどうか、問題点はあるし、こうしたことは改革されなければならない。そのためにこれを監視する第三者の機関をもうけることも必要だろう。

 感情的な公務員バッシングは困りものだが、公務員の側にも「公僕」という意識が薄れ、政治や業界と癒着して甘い汁を吸っていたのではないか。とくにキャリア官僚のモラルの低下が著しいように思われる。

 なお、財政赤字の原因を公務員の多さや高給のためだと考えている人が少なくない。郵政を民営化し、公務員をリストラすれば財政が健全化すると信じ込んでいる人も多い。たしかに多少は減るかも知れないが、これで財政赤字が解消されると考えるのは間違っている。

 それではなぜ、日本は700兆円を超える国債が累積し、毎年30兆円を超える国債を発行しないと予算が組めない国になったのだろうか。この疑問に答えるためには、少し歴史を振り返ってみる必要がある。

 80年代、日本の輸出産業は好調だった。アメリカへの純輸出(輸出−輸入)は千億ドルを超えていた。これは勤勉さと生産性で上回る日本が国内需要をはるかに上回る製品を作り出し、そのはけ口をとくにアメリカを市場にもとめたためだ。

 そこでアメリカ政府は「構造改革協議」でこのアンバランスを是正するように求めてきた。アメリカの製品(農産物)をもっと買うこと、日本国内の需要(内需)を拡大して、輸出にたよらない経済体質になること、そして生産過剰にならないように、日本人のけたはずれた長時間労働をあたため、閑暇をふやすことが日本に強く要求された。

 日本人のライフスタイルを変えることは、内需の拡大にもなり、アメリカとの貿易摩擦を緩和する上でも一石二鳥、三鳥だと思われた。アメリカからの要望だったが、これはとても合理的な要望で、アメリカ国民にとって幸福であるばかりでなく、日本国民にとっても幸福な解決法だと考えられた。

 だから国民もこれを歓迎した。週休二日制が実施され、休日を増やして他の先進国並の労働時間に近づけるよう、つぎつぎと法案がつくられ、政策が実行された。「狭い日本、そんなに急いでどこへいく」という標語が人気を呼び、日本社会に「ゆっくりズム」がうけいれられるかにみえた。

 このとき、アメリカが内需拡大として数百兆円規模の公共事業を日本に求め、日本もこれを受け入れた。アメリカはこれで貿易格差がちじまると考えたのだ。またこれにアメリカの建設業界を参入させたと思っていた。

 日本の大規模な公共事業はこうした経緯ではじまりまった。アメリカとの約束を果たすため、リゾート法がつくられ、全国各地に大規模な国民的なレジャー宿泊施設が大量につくられ、空港や道路やホテル、ゴルフ場がおびただしくつくられた。

 ところがこうした自然開発型の公共事業が田中角栄の「日本改造計画」の再来となり、不動産を中心にしたバブルを誘起した。そして、さまざまな経緯でバブルがはじけたあと、たくさんの不良債権の山が築かれることになったわけだ。

 不況により、国家財政は縮小した。さらに税制改革によって、さらにこれに拍車がかかり、こうしてみるみるうちに財政赤字がふくらんだ。それでも政府はデフレ脱却のため、景気回復のために公共事業をさらに続行した。

 こうした歴史を知れば、公務員が無駄使いをしているからというのは問題の矮小化以外のなにものでもないことがわかるだろう。ただ、念のためにもう一度書くが、公務員の無駄使いは現実に存在するし、これを改めるのは大切なことだと考えている。

 どうしたら、日本の巨大な財政赤字の累積を解消できるか。「民でできることは民で」という「民営化」はその一つの解答であろう。しかし、以上に見てきたように、財政赤字を生みだしてきたシステムがあるかぎり、「民営化」は根本的な解決にはならない。大切なのはこの国債依存型のシステムを変えることである。これについては、また改めて書いてみよう。


橋本裕 |MAILHomePage

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