橋本裕の日記
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2005年08月15日(月) 平和で豊かな日本

 60年前の今日、天皇の玉音放送があり、日本は終戦をむかえた。東京、大阪、名古屋、広島、長崎をはじめ全国の60以上の主要都市が焼け野原となり、庶民の暮らしはどん底に墜ちた。それから60年間、現在の日本は世界で羨まれる平和で豊かな国になっている。どのくらい日本が豊かであるか、データーを見ておこう。

 日本人一人当たりの日給は平均して12000円あまりである。ところが世界の87パーセントの国の日給平均はこの半分に満たない。さらに世界の77パーセントの人たちは、なんと日本人の1/10の収入しかない。そして7割の人々は日本なら新聞を買い、コーヒーを飲めばなくなる収入で一日を過ごしている。

 日本ではペットボトルのお茶が120円もする。ところが一日の収入が120円に満たない人々が世界には7億人もいる。もちろんこれらの人々は、いつも飢えと直面しているわけだ。これからはペットボトルを買うとき、こんなことも考えてみてはどうだろう。

 世界でトップレベルの所得をもち、世界一の長寿国であり、しかも犯罪もすくなく、都会の路地裏を女性が夜中に一人で歩いていて安全な国が他にあるだろうか。そして、この60年間、一度も戦争や内乱を体験したことのない国が世界にどれほどあることだろう。

 こうした世界の国々の人から見たら夢のような暮らしをしている日本人が、信じられないことに国の中では「憲法をかえよ」とか、「構造改革だ、痛みを伴った改革だ」と大騒ぎしている。もっとも大騒ぎしているのは、一部の政治家とマスメディアなのだが、こんなにうまくいっている国をどうして変えなければいけないのか、外国の人々には不思議なことだろう。

 日本がいまやるべきことは「郵政改革」などではない。世界第二位の経済大国として、他にやるべきことがたくさんある。持っている経済力を生かして、もっと国際貢献しなければならないときに、視野狭窄に陥った日本人はつまらないことでいがみ合っている。なんとも愚かなことだというしかない。

 しかし、世界中からうらやまれる日本人が、実際にそれほど幸せを実感できているかというとそうではない。実は多くの日本人が、子供から老人にいたるまで、自分の人生をそれほど恵まれいるとは考えていない。意識調査をすると、日本人は世界中の人間のだれよりも、自分のことを不幸せだと感じているらしい。たしかに日本人の自殺率は世界一である。

 この謎をどう解いたらよいのか。物質的な豊かさのなかで、心の豊かさがいつか蝕まれたのだといえば一般論としてはその通りかもしれないが、それではどうしたらよいのかと問われれば答えに窮するだろう。

 そこで、もう少し、現実に即したところから見てみよう。私が注目してしているのは、日本の社会消費の低さである。日本の場合、社会消費はGDPのわずか10パーセントしかない。日本はOECDの平均の19パーセントをはるかに及ばない。EU諸国では20パーセントを超えているし、軍事大国のアメリカでさえも15パーセントを維持している。

 社会消費が少ないということは、教育や福祉、医療といった生活のインフラを日本人は個人で負担しているということだ。本来は国の公共サービスで提供されるべきものが、日本では個人の自己責任になっている。そのため日本の個人消費はOECDの平均の2.08倍にもなっている。

 社会消費の割合はその国の「住み易さ」の目安でもある。これが異常に低いということは、日本を庶民にとって住み難い国だということだ。こうしたところに、日本人の幸福度の低さの原因があるのだと考えてみてはどうだろうか。1.24という異常に低い出生率を改善するにも、こうした社会消費の充実を他にしては不可能だろう。

 公共事業と言えば、日本ではあまり評判がよくない。それはだれも利用しないところに道路や空港を作り、無駄な施設を作ってきたからだ。そしてこれが政・官・財の癒着にもなってきた。ただでさえも少ない社会消費を、こうした無駄なことに消費してきたのだから、よけいに困るのである。そのせいで、日本ではいまだに少人数学級も実現されていない。

 老後の不安から、人々は貯蓄にはげみ、これが個人消費をあっぱくしてきた。技術革新で生産性が飛躍的にのびたのに、需用がのびず供給過剰から、日本は長いデフレに苦しんでいる。

 これを解消しようと国は国債を発行して借金を重ね、銀行は自己収益のみを考えていよいよ国際金融市場でのマネーゲームに深入りし、国民の生活からも、企業の活動からも遊離した存在になってきた。

 いずれにせよ、この流れを変えるために、政府はいまこそ第一の任務である「国民のしあわせを実現すること」に政策力を集中しなければならない。政治がこの原点を忘れたとき何が起こるか、身近では現在の日本を覆う満たされぬ不満であり、また歴史を繙けば、先の戦争の悲惨であろう。

 とくに日露戦争後、政府と軍部は、国民の幸せを顧慮せず、むしろ国民に犠牲をしいる政策を実行して、日本を戦争の悲劇へと導き、さらに先の大戦で敗北して国民に塗炭の苦しみをなめさせることになった。この恐ろしい教訓を決して忘れてはいけない。

 戦争をするのはいずれも不幸な国民たちである。自分たちの幸せをでなく、また他国民のしあわせをでなく、空虚な国家主義の宣伝にまどわされ、自分たちの国が神国だとか、世界の強国にならなければならないなどというたわごとにつきあっていると、日本人はいずれまた身を滅ぼすことになるだろう。

 政府が一部のひとびとの利益や幸福ではなく、最大多数の国民がしあわせになることを真剣に考え、そうした政策を常に実行していれば、国の平和は保たれ、戦争は決して産まれることはない。私たちもこのことを肝に銘じて、ほんとうに私たちを幸せにしてくれる政策を掲げる政党を支援し、大きく育てていくべきだろう。


橋本裕 |MAILHomePage

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