橋本裕の日記
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2005年08月14日(日) ファシズムの匂い

 小泉首相の衆議院解散はとても強権的で、恐ろしいものを感じた。おもわず、「もはや戦後ではない。戦前である」というキャッチフレーズを思い出したくらいだ。

 小泉首相は国民の圧倒的な支持のもとに自民党の「造反組」をねじふせ、民主党を踏みつぶして勝利するつもりでいるのだろう。現在の国民の意識状況やマスコミの煽り方からすれば、これは非現実的な話ではないと思う。

 小泉首相は「造反」した議員を公認しないだけでなく、彼らを潰すために対立候補をぶつけるのだという。これをマスコミは面白おかしく時代劇仕立てで「刺客」だの「くのいち」だのと呼んでいる。そしてその刺客として財務省や通産省の官僚を小泉首相じきじきに一本釣りしている。官僚の国会議員への天上がりはこれからラッシュを迎えるのだろう。

 自分に逆らう人たちを抵抗勢力、反動だと決めつけ、改革、改革、と叫ぶ姿は、昔の国粋的な青年将校とそっくりだ。あるいは国民に熱狂して迎えられたヒトラーをも彷彿とさせる。またあのいやな時代に逆戻りしなければよいのだが・・・。

 当時の日本の様子が描かれている昭和7年2月11日の永井荷風『断腸亭日乗』を、森田実さんの「時代を斬る」から孫引きさせてもらおう。
http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/

<二月十一日。雪もよひの空暗く風寒し。早朝より花火の響きこえ、ラデオの唱歌騒然たるは紀元節なればなるべし。・・・

 去秋満洲事変起りてより世間の風潮再び軍国主義の臭味を帯ぶること益ゝ甚しくなれるが如し。道路の言を聞くに去秋満蒙事件世界の問題となりし時東京朝日新聞社の報道に関して先鞭を『日々新聞』につけられしを憤り営業上の対抗策として軍国主義の鼓吹に甚冷淡なる態度を示しゐたりし処陸軍省にては大いにこれを悪(にく)み全国在郷軍人に命じて『朝日新聞』の購読を禁止しまた資本家と相謀り暗に同社の財源をおびやかしたり。

 これがため同社は陸軍部内の有力者を星ヶ丘の旗亭に招飲して謝罪をなし出征軍人慰問義捐金として金拾万円を寄附し翌日より記事を一変して軍閥謳歌をなすに至りし事ありしといふ。

 この事もし真なりとせば言論の自由は存在せざるなり。かつまた陸軍省の行動は正に脅嚇取材の罪を犯すものといふべし> 

 昨日の朝日新聞朝刊の特集「戦後60年」で、半藤一利氏もまた永井荷風の日記を引用している。昭和16年6月15日の分を、同様に孫引きしよう。

<(日中戦争の原因は)日本軍の張作霖暗殺および満州侵略に始まる。日本軍は暴支膺懲と称して支那(中国)の領土を侵略し始めしが、長期戦争に窮し果て、にわかに名目を変じて聖戦と称する無意味の語を用い出したり>

<欧州戦乱以後、英軍振るわざるに乗じ、日本政府は独伊の旗下に随従し、南洋進出を企図するに至れるなり。しかれどもこれは無智の軍人らおよび猛悪なる壮士らの企てるところにして、(略)国民一般の政府の命令に服従して南京米を喰いて不平を言わざるは恐怖の結果なり。麻布連隊叛乱(二・二六事件)の状を見て恐怖せし結果なり・・・>

 戦前、戦中を通じて、多くの知識人や言論人が国粋的になり、戦争賛美に傾く中で、永井荷風はいささかも動じていない。そして状況認識もすこぶる正確である。これは永井荷風が本当の意味の国際人であり、また日本の伝統をこよなく愛した文化人であったからだろう。


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