橋本裕の日記
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2005年08月11日(木) 郵政民営化の問題点

 郵政民営化法案が8月8日に参議院で否決された。小泉首相は即日衆議院の解散に踏み切った。これについて、8月9日の朝日新聞に「解散をこう読む」に、内橋克人、田原総一郎、松原隆一郎の3人の識者が意見を寄せている。

 なかでも、内橋さんの文章がよく問題の本質をとらえていた。内橋さんは私がもっとも尊敬し信頼している評論家のひとりである。この人はいつも視点がしっかりしていて、主張にぶれがない。根底にある哲学がすばらしいからだろう。

<今、東証1部の上場企業に限っても、82兆円が現金として眠っている。今年度も16兆円増える見込みで、企業は過剰マネーの投資先に頭を抱えている。民営化で郵貯・簡保資金が民間市場に流れ込んでも設備投資には回らず、利回りの有利な運用先を求めて米政府証券など海外に流れるだけ。国民の資産は不安定な投機マネー市場におびきだされ、高い海外リスクにさらされる。利回りの悪い日本国債の引き受けてもなくなり、将来の不安を増すばかりだ>

 郵政を民営化して、郵貯や保険の350兆円を民間で活用せよという人がいるが、これは日本経済がおかれている実態を見れば、そうやすやすとは受け容れられるものではない。

 バブルの頃も、企業も銀行も過剰過剰マネーの扱いに困り、土地投機に走った。日本だけではなく外国の不動産まで買いあさった。しかし、投機マネーはその後、どうなったか。

 バブルのころ、投機市場に参加出来なかった郵貯・簡保資金はおかげで不良債権にもならす、大切な国民の財産として生き残ったが、この教訓がもうすっかり忘れられている。

 しかも、現在の投機市場は、「ファンド資本主義」という名前のとおり、当時よりもさらに加熱し、格段にレベルが上がっている。土地や建物を買うのではなく、何兆円もの資本金をもつ企業をも買いあさることが平気で行われている。

 現在も銀行は国債を大量に買っている。しかし、同時に海外の投機市場にも巨額の投資をしている。この投資マネーが企業の買収資金として世界中で猛威を振るっているわけだ。

 一昨日もフィンランドの世界ナンバーワンの携帯電話会社ノアキ(資本金7.9兆円)がアメリカのネットワーク機器大手のシスコ・システム(資本金13.7兆円)に買収されそうだという話が新聞に出ていた。

 しかし、「郵政民営化」に賛成か反対かを迫られている多くの国民は、こうした国際的な経済情勢につてはほとんど知らない。国民の多くはただ、郵政を民営化すれば公務員の数が減るのでよいと考えているのではないだろうか。

 実際、郵政民営化というのは、公務員のリストラだと捕らえている人が多い。公務員は高い給料をもらい、失業もしないで、のうのうと暮らしている。リストラして人件費を減らすべきだという気持が強いようだ。

 民間企業にリストラがあるのに、公務員がリストラされないのは不平等だという感情は理解できるが、だからといって「民営化ですべてが解決」ということではいけない。

 内橋さんも、郵政民営化に限らず、「民営化すればすべてがうまくいく」という民営化万能論が広がることはとても危険だと書いている。なぜならこうした感情論は冷静な判断のさまたげになるからだ。

 私たちはもう少し冷静になって、国民の財産である350兆円を、今後の日本と世界のためにどう有効に活用したらいいのか、国民的課題として考えてみる必要がある。その議論や研究を尽くした結果、民営化したほうがよいという合意が形成されれば、それはそれでよいことだと思う。


橋本裕 |MAILHomePage

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