橋本裕の日記
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2005年07月17日(日) 逆ピラミッド組織の社会

 5月16日の朝日新聞の「時流持論」のコーナーに、資生堂の社長で東京商工会議所の副会頭をつとめる池田守男さんが、「奉仕培う逆ピラミッド型」と題して、なかなかすばらしいことを書いている。これを読んで、私は池田さんと資生堂のファンになった。

 池田さんは2000年に乞われて資生堂の副社長になった。そして翌年には社長になった。そのころの資生堂は業績が伸び悩み、会社に活力がなかった。資生堂は130年の歴史をほこる老舗である。その会社がいまや組織疲労を起こし、動脈硬化で末期的状況になっていた。

 どうやってこの朽ちた組織を再生させたらよいのか。池田さんが考えたのは、これまでのピラミッド型の組織を、逆立ちさせて、「逆ピラミッド型」に変えることだった。頂点に最高権力者の社長がいて、その下に部長、課長、係長、ひら社員がいるのではない。

<組織の一番上にお客さまがあり、そのお客さまと出会う販売第一線の社員を現場の上司が支え、それをまた部門の長が支える。一番下の部分で社長が支えるというかたちだ。

 私たちはお客さまや社会に奉仕するために存在するのだから、「逆ピラミッド」は当然のこと。これをあらゆる機会に社員の目や耳や脳裏に焼き付け、上司の意向に従うばかりで、お客さまとの接点である現場を軽視する意識を一掃したいと考えた>

 いちばん上にいるのは「お客さま」である。そしてこのお客様と対応する現場の社員達がその下に来る。その社員達を底辺から支えるのが中間管理職であり、そして逆ピラミッドの最底辺で会社全体を支えるのが社長である。経営者が従来のように上から下へ指示、命令を一方的に与えるというスタイルはここでは通用しない。

<会社や従業員は、組織やその長に奉仕するのではなく、お客さまとその先にある社会のために奉仕するものだ。企業は公器として社会の中で生かされているという当たり前の現実が、このサーバント・リーダーシップの精神を意識することで鮮明になる>

 池田さんは大切なのは、経営者がまずこの「逆ピラミッド」の発想をもち、サーバント・リーダーシップの精神を発揮することだという。そうすればやがてこの意識はしだいに社員のなかに浸透し、受け容れられていく。

<やがてすべての社員が、お客さまのために奉仕するという価値観をもって、自らの判断で行動できるようになるはずだ。現場を最重要視することは、変化と競争の激しい市場環境にもすばやく柔軟に対応できることにもつながる。

 結果的に社員一人ひとりの人間性や個性を生かした組織運営が可能になり、多様性と魅力あふれた企業づくりに寄与するだろう。それは、社会全体が人間味あふれる活力を得ることへとつながってゆく>

 ここに述べられている組織論は、私企業だけではなく、政治や行政組織にもあてはまる。むしろ行政こそパブリック・サーバントとして、この「逆ピラミッド」の精神をもたなければならない。

 一番上に「民」があり、そのしたに「官」がある。その「官」の逆ピラミッド組織を最底辺で支えるのが「首長」でなければならない。こうした意識改革が国民一人ひとりに浸透していけば、そのときこそ民主的で活力のある社会が実現することだろう。

<効率性や利便性ばかりでなく、一人ひとりの人間の個性を尊重し、愛情深くお互いに支え合う組織や共同体をつくりあげようとする営為は、未来の幸せな社会への道標となると私は信じている。21世紀は心の時代、文化の時代となるにちがいない>

 池田さんのような経営者が存在することはとても心強い。これまで日本の組織はともすると中央集権的なピラミッド型の権力構造になりがちだった。これを逆転することで、組織は新しく生き返り、社会は共生的な支え合いの場となり、人生もまた多くの人たちにとってほんとうに生きがいのあるものとなるに違いない。


橋本裕 |MAILHomePage

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