橋本裕の日記
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GDP(国内総生産)というのは国内で生産される財やサービスの全体だ。つまり国民の所得の合計。経済成長の指標でもあり、これをいかに増大させるかに各国はしのぎを削っている。
ここに手っ取り早くこれを実現する方法がある。隣の家とペアを組んで、隣の家の奥さんに家事をやってもらい給料を払うのだ。そのかわり自分の妻は隣の家に出稼ぎに行って、給料を貰ってくる。これを全国の家庭で実施する法律を作れば、GDPは一挙に増大するだろう。
もっと効果的な方法もある。政府が成人男女に武器の所有を義務づける法律をつくればよい。これで武器会社はもうかるし、殺傷事件の発生率が高まるので、病院や葬儀会社ももうかる。僧侶の収入もふえるだろう。
警察官や警備員も増員しなければならない。弁護士や裁判官や刑務官ももっと必要になる。医者も必要になる。こうした人たちに給料が支払われるので、国民総所得は確実に増大する。
所得の増大は消費を促す。これによって製造業や各種のサービス業も活気づくだろう。殺人件数が増えれば、社会が殺伐としてきてストレスが高まるので、精神クリニックも繁盛する。弁護士や医者を養成する学校や刑務所も増築しなければならず、建築業界もうるおうだろう。こうして法律を一つ作るだけで、GDPはいくらでも増大する。
これは冗談のようだが、じつはそれほど現実離れした話ではない。たとえば200万人の囚人がいる犯罪社会アメリカの巨大GDPは、こうした巨大な「犯罪の生産」の基礎の上に築かれている。
アメリカに限らず、現代社会の繁栄は犯罪と戦争によって肥大した「GDP神話」の上に築かれている。こうした時代の本質を、マルクスはずいぶん前に見破っていた。
<哲学者は理念を生産し、詩人は詩を生産し、牧師は説教を生産し、教授は教科書を生産するのと同様に、犯罪者は犯罪を生産する。
犯罪者は犯罪を生産するばかりではなく、刑法をも、したがってそれを講義する教授やその為の教科書も生産する。犯罪者はさらに、警察、裁判所、判事、獄史、締刑史などを生産し、拷問のためのきわめて巧妙な機械的発明を生みだし、その道具の生産のために数多くの尊敬すべき手工芸家に雇用をもたらした。
したがって、犯罪が国民の富の増加を助け、生産力の発展のために貢献していることは、詳しく論証するまでもない。ひとりの泥棒もいなかったら、錠前が今日のように完成したであろうか。ひとりの貨幣偽造者もいなければ、銀行券の製作が今日のように発展したであろうか。
犯罪はあらたな財産攻撃の手段を提供することによって、たえず新たな防衛手段を生みだし、つまりは生産力の向上を助けている>(剰余価値学説史)
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