橋本裕の日記
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2005年05月08日(日) 思わぬ代償

 国家公務員のAさんは、昨年3月に、共産党のビラを配ったとして逮捕された。Aさんがビラを配ったのは休日だった。それでもこの行為が国家公務員法に違反するのだという。こうしたことで逮捕されたのは、37年ぶりだという。

 Aさんを逮捕するために、警官が尾行し、Aさんの私生活がビデオに録画された。カラオケ店、観劇、歯科医の出入り、女性と手を繋いで歩いているところまで分刻みで盗聴・盗撮された。

 これが法廷で上映されたことで、公安部門の警察の日常活動が浮き彫りにされた。5月1日付けの朝日新聞「統制への足跡」によると、Aさんへの尾行は29日間に及び、延べ171人の警察官が彼を執拗に追っていたようだ。Aさんは、「自分の手帖より細かいな。まるでストーカーだな」と思ったという。

 1999年8月に、盗聴法をはじめとする「組織的犯罪対策法」が、自自公の手で強行採決された。その後、政治ビラや反戦ビラの配布で逮捕される事例が相次いでいる。昨年中にビラ配りで住居侵入とされ、逮捕や取り調べを受けたのケースは、東京都内だけで30件をうわまわるという。

 立川では自衛隊の派遣反対を訴えるビラを防衛庁の官舎に配った市民団体のメンバー3人が逮捕され、75日間も勾留された。この件は東京地裁が「政治的表現活動としてのビラ配布は、商業ビラに比べて優越的な地位が認められている」として無罪判決を下した。しかし、検察側が控訴し、今後の裁判の行方はわからない。

 この判決が下された一週間後、東京都葛飾区のマンションに政党のビラを配っていた男性が住民の通報によって逮捕されている。勾留は正月をまたいで23日間続いた。朝日新聞「統制の足音」からその様子を引用しよう。

<地方の大学にいる長男が帰ってきて、その晩は久しぶりで家庭でカニ鍋を囲む予定だった。夫の帰りが遅いので、妻はおかしいと思った。知り合いの弁護士からの電話で夫の逮捕を知った。

 翌日の夜、自宅に十数人の警察官が来た。家宅捜査。「何を探しているんですか」と妻がたずねると、「名簿だよ」「だれがどこ配るのか、決まっているんでしょ」と警察官は言った。押収されたものはゼロだった。長男と長女はおびえていた>

 彼は5月20日に初公判を迎える。保釈されたあと、彼はビラ配りをやめた。「自分の気に入らないものは捕まえてしまえ」という世の中にならないか不安だという。しかし、最近の動きをみていると、この不安が現実のものとなりつつあるようだ。

 横暴な権力に頼って、自分の気に入らない存在を抹殺しようとする人々が着実に増えている。これが社会をどんなに恐ろしい場所にかえることになるのか、多くの人々はあまりに無頓着であるように見える。


橋本裕 |MAILHomePage

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