橋本裕の日記
DiaryINDEXpastwill


2005年05月07日(土) 統制の足音

 朝日新聞に連載された「統制の足音」を読んで、日本でとんでもないことが進行していると思った。5月3日の記事は、卒業式を妨害したとして起訴され、4月21日に東京地裁の被告席に立たされた元教諭のケースを報じている。おなじ教員として、何だか背筋が寒くなる思いがした。

昨年3月、都立板橋高校の卒業式に、同校を定年退職した藤田勝久さんは来賓として出るはずだった。当日、藤田さんは体育館で待っている保護者達に、「国歌斉唱のときは、できたら着席をおねがいします」と訴えた。 

 こうした藤田さんに、校長は退場を命じた。藤田さんは「板橋高校の教員だぞ」と抵抗したが、結局校長の要請に応じ、卒業生が入場する前に会場をあとにした。

 国歌斉唱のときはほとんどの卒業生が着席し、校長や来賓の都議が「立ちなさい」と起立をうながしたという。しかしこれ以外、とくに異常はなく、式の最後には卒業生全員が立って、自分たちが選んだ「旅立ちの日に」を合唱した。朝日新聞「統制の足音」から引用しよう。

<ピアノ伴奏は全盲のハンディを乗り越え、3年間を通い通した女子生徒がつとめた。「感動的な式だった」と振り返る出席者が少なくない。

 ある卒業生は「君が代の時は、押しつけはおかしいと思うから、僕は座った。式の雰囲気をぶちこわしたのは藤田先生ではなく、『たちなさい』と僕らを怒鳴りつけた都議達です」と言った。

 この時の板橋高校の不起立が、都議会で問題にされた。都教委は同校の教職員9人に厳重注意などの指導をし、警察は学校の被害届を受けて藤田さん方を家宅捜索した>

 これだけのことで警察の家宅捜索をうけ、裁判所で被告席に立たさてはたまらない。しかし実際にこうしたことが行われている。まさに「統制の足音」がいつのまにか私たちの身辺にしのびよっているという感じだ。

 この春、都立高校の卒業式には、校門で市民団体がビラを配らないように、私服の警察官の姿が見られた。ビデオを回す警察官もいた。これに対抗して、市民団体から依頼された弁護士が50校以上に派遣され、逮捕を防ぐために見守った。弁護士が派遣されなかった葛飾区の高校で3人が逮捕されたという。

 去年国歌斉唱時の不起立などで処分された教職員は全国で194人もいた。その99パーセントが東京都と広島県である。こうした措置によって今年の卒業式では、教職員や生徒の不起立はほとんどなくなった。板橋高校でも、今年の卒業式では生徒達は起立したという。

 国歌斉唱や起立については、法律が成立した国会でも首相が「強制はしない」と答弁し、天皇も「(強制は)いかがなものか」と発言している。一部の強硬な国家主義者によって、この国がどんどん右傾化し、ナショナリズムの跋扈する危険地帯に入っていくのを、私たちは座視していてよいのだろうか。


橋本裕 |MAILHomePage

My追加