橋本裕の日記
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毎朝、散歩している。NHK朝の連続ドラマ「ファイト」を見た後、8:30に家を出る。7,8分で木曽川の堤につく。伊吹山や金華山が眺めながら、さらに10分ほど歩けば名鉄の鉄橋にたどりつく。
赤い鉄橋を、名鉄の赤い電車が走っている。そこに「木曽川堤」という駅がある。9時少し前に、そのあたりに運動靴を履いた、風采の上がらない中年男が立っていたら、それが私である。
たいていそこから引き返すのだが、場合によっては、踏切を超えて、もうすこし堤を歩き、左側の小道を河原まで降りる。灌木の間を降りていくと、やがて急に視界が開けて、広々とした砂利の河原だ。
河原に腰を下ろして、ゆったりとした川の流れを眺め、緑に包まれた対岸の風景や遠くの青い山を眺める。広い河原に人気は全くない。ときおり鉄橋を赤い電車が通っていくくらいだ。耳を澄ませば風が木の葉をゆする音、川の流れる音、それから、静寂そのものが奏でる無声の音楽が心に響いてくる。
ある人が音楽には三種類のものがあると言っていた。楽器の奏でる音楽、自然の奏でる音楽、そして、この世を超えた世界から響いてくる天上の音楽。白い河原の清浄な世界に身を置いていると、天上の音楽でも聞こえてきそうな気がする。
散歩の途中、近所のS老人といつもきまった場所で顔を会わせる。S老人はすでに散歩の帰り道だ。この人は耳が遠いせいか、こちらが「おはようございます」と挨拶しても、そのまま通り過ぎることが多い。他人は眼中にないという感じだ。
ある日、その人が立ち止まって田んぼを眺めていたので寄っていくと、珍しく向こうから声をかけてきた。 「あれは、鴨だね」 「鴨がいるのですか。もう渡って行ったかと思ったが・・」 「マガモだね。あいつらは渡り鳥じゃない。一年中、このあたりにいくらでもいるよ。マガモは食べてもうまくないんだ」 「そうですか」 「7羽いるね、。2羽が親で、残りの5羽は子供だ」
まずいというくらいだから、食べた経験もあるのだろう。S老人は軍隊で馬に乗っていたという。おそらく将校だったのかもしれない。80歳を過ぎているはずだが、背筋が伸びていて歩くのも速い。
老人と別れてからも、私はしばらくマガモを見ていた。7羽で仲良く田んぼの泥に嘴を入れて、何か餌を食べている。マガモの他に、白鷺が一羽。上空には鳶が悠然と輪を描いていた。ほかに雀やひよどり、ムクドリも多い。
鉄橋から引き返すと、40分ほどの散歩になる。河原までいくと1時間を超えるコースだ。他に自転車でさらに遠出をするコースもある。これは休日に弁当を持って出かけることが多い。深緑の美しい季節、雨でも降らない限り、毎朝の散歩がたのしみである。
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