橋本裕の日記
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2005年04月25日(月) バンコクの夜

 25歳の文絵と26歳の洋子は同じ商事会社の総務部につとめる仲のよいOLである。社内の夏の親睦旅行で、文絵は営業部の鹿島俊行という32歳の青年と知り合った。青年からデートに誘われた文絵は、洋子に相談した。

 洋子は鹿島についての悪い噂を知っていた。そして彼がかなり女性関係にルーズな男であることを理由に、文絵が鹿島と交際することに反対した。文絵は洋子の言葉を信じて、鹿島を斥けたものの、彼が残念そうに別れを告げたときには、心残りがしないでもなかった。

 数ヶ月後のある秋の休日、街角で偶然であった文絵と鹿島は、久しぶりにお茶を飲んだ。そして、別れ際に、「また、お会いしませんか」と声を掛けられて、文絵はあいまいに頷いていた。それから、洋子に内緒にして、何回かデートをした。クリスマスの夜に、二人は結ばれた。それは文絵にとってはじめての体験だった。

 数日後、洋子に誘われて、文絵はタイへ旅行をした。タイのバンコクには洋子の婚約者で、文絵の従兄弟でもある国原泰夫がいた。彼はバンコクに進出している家電会社の技師として、もう1年近く現地で暮らしていた。

 文絵と洋子は、国原に案内されてタイの観光地を回った。レストランで夕食をしたあと、市場を見物しているとき、文絵は雑踏に二人を見失った。一人でホテルへ帰ろうとして、文絵はスラム街へ足を踏み入れてしまった。

 そこから抜けだし、呆然と夜の街角に佇んでいると、スラムからつけてきたらしい男に後ろから押し倒され、ハンドバックを奪われそうになった。文絵の悲鳴を聞きつけて、通行人が何人かかけつけてきた。その中に国原がいた。

 舗道に倒れていた文絵を、国原は抱き起こした。国原に抱きしめられて、文絵はようやく恐怖から自由になった。国原に支えられてホテルに帰ってくると、事情を聞いた洋子も文絵を抱きしめた。文絵は子供のように涙ぐんだ。

 その夜、文絵は洋子に鹿島と結ばれたことを告白した。洋子は一瞬驚いたような顔をしたが、何もいわなかった。二人でワインを飲んだあと、文絵は誘われるまま洋子のベッドに入った。洋子は姉のように添い寝しながら、文絵に意外なことを打ち明けた。

 鹿島は文絵より先に洋子に言い寄ってきたのだという。洋子はこれを断った。その後、文絵にも声を掛けたと知って、その正体を知っていた彼女は、文絵にアドバイスしたのだという。

 文絵は洋子の話に驚いた。鹿島は自分をただもてあそんでいるだけなのだろうか。文絵は信じたくなかったが、洋子が嘘をつくはずはなかった。文絵は力なく起きあがると、自分のベッドに行った。その夜は眠れなかった。(明日に続く)


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