橋本裕の日記
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2005年04月19日(火) 他人を利用する人

 Aさんには父方の叔父がいた。この叔父夫婦には子供がいなかった。叔父の口癖は、「お前はわしの息子だと思っている。俺が死んだあとはよろしく」だった。Aさんもそのつもりで、この叔父夫婦に尽くしてきた。幼いときに父を亡くしているAさんにとって、叔父は父親のようなものだった。

 この叔父という人は人使いの荒い人で、「京都に遊びに行きたいから、車で連れていってくれ」などと突然電話してくる。Aさんはそのたびに叔父さんの家に駆けつけて、御用運転手のようにして一日を費やしたりした。

 叔父さんが入院すると、Aさんはまっさきに病院に駆けつけ、医者から余命いくばくもないと告げられると、いろいろ気を使った。「あれをしたい、これをしたい」と、叔父さんの要求はエスカレートするばかりだったが、Aさんはそのたびに学校を休んでまで叔父に仕えたのだという。

 ところが叔父が死んで、家に駆けつけると、すでに叔母の兄弟達が葬式の手配を終わっており、Aさんは仕事の割り振りもされず、完全なお客さんあつかいだったという。叔母の様子も、叔父が生きていた頃とはうってかわって冷淡だった。

 そのうち、叔母さんが「財産めあてで近づくような人は信用がならない」と、Aさんの悪口を言っているのが聞こえてきた。Aさんは叔母方の親戚の誰かが、叔母にそのように吹き込んだに違いないと思ったという。

 こうしてAさんを親族会議から外しておいて、財産相続が話し合われ、Aさんをはじめ叔父の親戚の方にはほとんど何も与えられなかったという。Aさんは自分が叔父や叔母の口車にのり、利用されていたと知って、次第に腹が立ってきた。

 財産分与についてもどうしても納得がいかない。そこで東京で大学教授をしている兄夫婦に相談すると、「訴訟を起こして、徹底的に戦え」と励まされたのだという。兄夫婦に紹介されて、相手よりも何倍もキャリアのある弁護士をつけたので、費用も馬鹿にはならなかった。

 最終的には叔母の親族団が白旗を掲げ、示談が成立した。しかし、叔父の財産は生前叔父が吹聴していたほどではなかったのだという。生前は叔父や叔母によいように使われ、死後は訴訟にふりまわされて、厖大な精力と時間を費やしたAさんは気の毒である。

 考えてみれば、Aさんは叔父や叔母に利用されたあげく、裁判をけしかけた兄夫婦にも利用されただけだった。こうした体験が重なれば、人はだれでも他人を信用しなくなり、他人に利用されないよう警戒するようになるのではないだろうか。

 人に利用された人間は、こんどは人を利用しようと考えるようになる。しかし、そうした人間にはだれも近づかないので、身辺が孤独で淋しいわけだ。いきおい、「人間というやつは、一皮剥けば欲のかたまり」だと、人生に悲観的になる。Aさんの叔父さんや叔母さんも、そうしたタイプの淋しい人間だったのだろう。


橋本裕 |MAILHomePage

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