橋本裕の日記
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2005年03月04日(金) 堤前会長逮捕される

 昨日、堤義明コクド前会長が逮捕された。彼はコクドが保有する西武鉄道株の比率を少なく見せるために有価証券報告書を偽装していた。さらに昨年10月に堤前会長が記者会見でこの事実を公表するまえに、大量の株を売却していた。これは法律で禁止されたインサイダー取引である。

 西武グループの総帥として、4年連続世界一の資産家に選ばれ、日本的経営を体現するカリスマ経営者としてマスコミにもてはやされていたのが夢のようだ。そもそも資本金1億円しかないコクドが、5000億円以上もの売り上げを持ち、何兆円という不動産を所有する西武グループを支配するなどという前近代的なシステムがまかりとおっていたのがおかしい。

 なぜこんな事をしていたかといえば、堤家の税金対策からだろう。本来なら莫大な税金を納めなければならないのに、これを個人所有ではなくコクドという会社の所有にすることで、堤家とその一族は莫大な税金や相続税を逃れていた。

 つまり名義上は西武グループの巨大な株式を、堤氏個人が所有する変わりに、コクドという会社に肩代わりさせていた。そして、コクドも売り上げをことごとく不動産などに投資して、利益率をかぎりなく0に近づけることで税金のがれをしていたわけだ。

 コクドはプリンスホテルや西武球団などの株を100パーセント所有しているが、コクドが所有しているということは、つまり堤氏が所有しているということである。こうしたコクド傘下の企業が何と135社もある。

 その中でもひときわ巨大な資産を持っているのが西武鉄道である。コクドはこの株式上場巨大企業の株式を64パーセント所有していた。さらにプリンスホテルなどのグループ企業を加えると88パーセントに達し、東京証券取引所の上場基準の8割を超えてしまう。

 そこで報告書にはこれを43パーセントと記載していた。ところがIT化にともなうシステムの変更でこれがばれそうだということで、去年9月頃までにコクド所有の西武鉄道株をいそいで売却したわけだ。

 売却した株の額は650億円あまりで、200億円あまりを堤氏がじきじきに売却したという。これでコクドの西武株保有率を記載どうりの43パーセントにしたわけだ。しかし、この事実が公表されると株価が半分にまで値下がりし、一般株主に大きな損害を与えた。これは道義的にも大きな問題である。

 会社は株主のものというのが欧米型の資本主義だ。会社は株主に利益を与えるために、従業員をやとい、経営者をやとって営利活動をしているわけである。だから株価を上げ、株の配当金を上げることが至上命題ということになる。

 これに対して、日本の会社は家族経営の小企業がそのまま大規模になったようなところがある。オーナーがいて、従業員がいる。そして顧客がいて、その総体が会社ということになる。たとえば、先代の堤康二郎は企業集団には縁故者以外は採用せず、それも柔道部とか野球部という体育会系ばかりだった。

 堤義明の場合はこれにくわえて、官僚出身者を多く採用した。自殺した西武鉄道前社長の小柳皓正ももとは運輸省(現・国土交通省)のキャリア官僚で、1993年に西武鉄道の常務として天下った人である。さらの政治家との交遊を深め、小泉首相と側近もプリンスホテルを常宿にしていた。

 身内とキャリア官僚、政治家でガードされた王国に専制君主として君臨していたのが堤康明だった。彼が鉄道で視察に行くとき、その沿線に従業員が並んで最敬礼しているテレビの映像をみたことがあるが、これはまさに戦前の天皇陛下並ではないのかと目を疑ったものだ。

 オーナーがこうした専制君主として会社に君臨するというのは、堤王国ばかりではなく、非近代的な日本企業にありがちのことだ。株式は公開されていても、それはほんの一部で、実態はそのほとんどをオーナー一族と系列企業やメインバンクで持ち合いをしていることが多い。そして彼等はあまり株式市場に関心がない。なぜならたとえ株が上がっても、それを売却して儲けようと思わないからだ。

 そして日本の企業の場合は、利益を従業員や株主に還元するのではなく、そのまま会社の資産にしてしまい、設備投資にまわしたりする。欧米の企業であれば、利益が出れば株に還元し、会社はそれをバネにして株式市場でさらに資金を調達して、これを投資に回すというやり方をするはずだ。これだと株価は下落させずに発行高を大きくすることができる。西洋型の企業が巨大な資本金をもっているのはこのためである。

 これに対して、日本的経営の場合は、株式市場で資金を調達するのではなく、営業利益をあてたり、銀行から借りたりする。コクドの場合はまず土地を買い占め、これを担保にして銀行から莫大な資金を調達し、そこにホテルやゴルフ場を建設して、どんどん事業を拡大していった。その間、株式の増資はなく、資本金1億円という信じられない数字が維持されたわけである。

 土地を担保に銀行から資金を調達するという方法は、その利息の支払いで利益を解消し、法人税を0にするという一石二鳥のメリットがあった。しかし、バブル崩壊とともにこの土地本位制が崩れると堤式経営手法はたちまち行き詰まった。銀行からかりた巨大な借金の返済がむつかしくなったのである。

 そして、西武グループのように2万人以上の従業員をかかえ、5000億円の売り上げのある企業がほとんど法人税を納めないのは不合理だということで、外形標準課税の導入も昨年度から一部なされている。こうしたことが逆風となり、さしもの堤義明のカリスマ性も衰えた。今回の東京地検の逮捕は、こうした時代の流れの中で可能になった。

 堤義明の異母兄の堤清二氏は辻井喬はというペンネームで小説を書いている。最近出版された自伝風の小説の中で、父親の堤康二郎らしい人物が息子にこう訓戒している。
 
「世間では東急を近代的だとか大企業らしいなどと言っているが、どの企業も五島家のものではない。そこへいくとわしの事業は全部楠家のものだ。埼京電鉄は上場しているが、それは形だけのこと、絶対の支配権はわし一人が握っている。成り立ちが違う。経営の実態を知らない、近代かぶれの学者や記者ごとき軽薄才子に惑わされてはいかんぞ」

 堤義明はこの遺訓を守った。そして西武グループはすべて彼のものだった。しかし、この非近代性のゆえに、彼はいつの間には「裸の王様」になり、彼の王国は時代の波から取り残されていった。しかも、彼はこのことに最後まで気付かなかったのである。彼は記者会見で「株式を上場するということがどういうことか知らなかった」と告白している。
                    
 コクドのように一億円以上の資本金があれば日本国では大企業に分類される。日本国の大企業は全法人255万社のうち1.2パーセント、3万3千社で、このうち黒字で法人税を支払っている大企業はこの半分である。この結果、法人税収は9.5兆円にとどまり、消費税4パーセント分と並ぶ程度でしかないのだという。

 こういう非近代的な日本企業の体質が、じつは今、グローバル化のすすむなかで大きな問題になっている。その象徴が外資の勢力を背景にしたライブドアの堀江社長によるニッポン放送の買収事件である。これについては明日の日記に書くことにしよう。

(参考サイト)
http://www.inose.gr.jp/mg/back/04-11-11.html


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