橋本裕の日記
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2005年01月23日(日) 堤王国の崩壊

 西武鉄道グループの中核企業コクドで、名義と実際の所有があいまいな株があることが1月7日に開かれた西武グループ経営改革委員会で報告された。コクドには役員、社員名義の株がたくさんある。しかし、この持ち主が誰だかわからないのだという。

 コクド株を買った社員は、購入代金をすぐに返金されている。しかし名義株の持ち主なので、配当が支払われ、株主総会の召集通知も受ける。ただし、社員でなくなると、名義も消える。これでは株の所有者だとはいえない。どうしてこんな不可解なことが起こったのか。

 コクドは資本金1億円に満たない企業だが、実は西武鉄道というとてつもなく巨大な企業の株の多くを所有し、これの経営権を握り、資産や人材を支配している。しかも、西武鉄道は株式を上場している正式の企業だが、親会社のコクドはそうではないので、監督官庁の査察も及ばない。

 こんな複雑なカラクリを作ったのは、グループ創業者である故・堤康次郎だ。株式を上場しない「私企業」であれば規制はゆるやかで、社長は思い通りのワンマン経営ができる。まずはコクドを支配し、コクドを使って、本体の西武鉄道を思いのままに支配してきたわけだ。法律の盲点をついた汚いやり方である。

 西武鉄道は巨大な利益をあげながら、法人税を納めない企業としても有名である。企業として利益を出さないように、土地を買い占め、不動産投機に走った。利益ばかりではなく、銀行から資金を調達し、これを湯水のように使って土地を買い占め、これがいっそう土地ブームをあおりたて、バブルへと日本経済を暴走させた。

 堤義明はこうした手口で巨万の富を築いた。バブルの絶頂期のころは資産3兆円といわれ、世界の大富豪の仲間入りをした。現在でもその所有する土地は1600万坪を下らないといわれ、おそらく日本一の富豪であることには変わりない。

 その一方で、西武鉄道は1兆円を越える負債をかかえている。わかりやすく言えば、庶民の銀行に預けたお金が、西武鉄道とコクドを通って、すべて堤義明のもとに吸い取られたのである。その巧妙な仕掛けについては、すでにだれもが気付いていた。しかし、政界と財界のみならず、右翼にも影響力がある堤義明をだれも批判できなかった。

 堤義明の経営するプリンス・ホテルは皇族や政府要人が利用することで有名である。小泉首相も例外ではない。堤義明は闇の帝王としての顔の他に、一流企業の経営者としての顔を持ち、政府の審議会の委員に名を連ね、日本オリンピック委員会の委員長などの輝かしい肩書きを持っている。

 しかし、ここにきて、ようやくその正体があばかれ始めた。改革委は、コクド株の所有実態の解明をさらに進め、堤義明・前コクド会長によるワンマン経営を脱するために、堤氏が保有するコクド株の放出を求めることも検討しているという。

 さらに、堤義明の私生活についても、その一端が暴かれ始めた。1月20日発売の「週刊文春」で、元フィギュアスケート五輪代表でタレントの渡部絵美(45)が、で前コクド会長の堤義明氏(70)から過去にセクシャルハラスメントを受けたと告白している。

 渡部がセクハラを受けたのはインスブルック五輪に出場した直後の17〜18歳のころで、フィギュアスケート界のアイドル的存在だった彼女は、当時40代の堤義明に「スケートを続けたかったらおれの女になれ」と言われ、プリンスホテルの一室で、むりやりベッドに押し倒されたりもしたのだという。

 渡部はそれでも堤義明を拒否した。そうしたら、コーチからまで、「君がスケートを辞めれば、後進のためになる」というわれ、ロッカーの鍵まで奪われることになった。しかし、彼女はあきらめずに、米国に渡り、見事にカムバックして、オリンピック入賞を果たす。

 渡部絵美はこうした過去をようやく発表した。それはコクド株疑惑が引き金になり、もはや堤義明批判がタブーでなくなったからだろう。彼女は「週刊文春」のなかで、「この世にも神様がいるということがようやくかりました」と述べている。

 それにしても、17歳の渡辺絵美の見た世界は、あまりに異常だった。お茶を運んでくるコクドの社員は、堤の前で緊張して手が震えていたという。部屋にやってくる幹部社員達は堤の前に跪き、額ずくものまでいる。

 そして、あげくの果てには、密室での強姦未遂。部屋から逃げだして、秘書にそのことを訴えたら、「減るものじゃないだろう」と言われたという。こうした圧力にまけずに、ひたすら自分のスケート人生を貫き通した渡部絵美は立派だと思う。

 「現役時代、西武鉄道・国土計画の社長だった堤義明氏より人間としてのプライドを傷つけられるような数々のセクシャルハラスメントを受けました。いまだにトラウマのようになってしまい、その傷が心に焼き付いています」という彼女の言葉を、堤義明はどう受け止めているのだろう。

 堤義明の悪行はこれからたくさんでてくるだろう。公人として枢要な地位を占めていた彼の社会的責任は重い。しかし、問題は彼の個人的な責任だけではない。彼のような経営者を生んだのは、日本の非民主的な企業風土である。

 日本に、いまだに無数の「堤義明」がいて、「渡部絵美」がいる。そして、企業という治外法権の世界で、人権を踏みにじられながら、「減るものじゃないだろう」とうそぶく大勢の社員がいる。問題なのは、人権侵害を見過ごし、専制支配を許す風土に、暗黙の了解を与え続けているマスコミや私たちの姿勢である。


橋本裕 |MAILHomePage

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