橋本裕の日記
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| 2005年01月20日(木) |
ジャーナリズムの使命 |
朝日新聞は1月12日の朝刊で、01年1月、旧日本軍慰安婦制度の責任者を裁く民衆法廷を扱ったNHKの特集番組で、中川昭一・現経産相、安倍晋三・現自民党幹事長代理(当時:内閣官房副長官)が放送前日にNHK幹部を呼んで「偏った内容だ」などと指摘していたと報じた。
さらに1月18日の朝日新聞によると、中川、安部両氏の「政治介入」を受けて、NHKでは番組内容の見直しがおこなわれ、43分の内容が40分に3分間カットされたのだという。
<編集作業が終わり、教養番組部長からOKが出たのは28日午後11時ごろ。番組は44分。それが再び大幅変更されたのは29日夕。番組制作局の局長室で松尾氏と国会対策の野島氏も参加した「異例の局長試写」(NHK関係者)があった。開始前、番組制作局長はスタッフに「(国会での予算審議の)この時期にNHKは政治と戦えない。天皇有罪とかは一切なしにしてよ。番組尺(長さ)が短くなったら、ミニ番組で埋めるように手配して」と述べたという。試写後、松尾、野島氏らが指示した主な修正点は次の3点。
(1)秦氏のインタビューを大幅に増やす(2)民衆法廷を支持する米カリフォルニア大学の米山リサ準教授の話を短くする(3)「日本と昭和天皇に慰安婦制度の責任がある」とした法廷の判決部分のナレーションなど全面削除
放送当日の30日午後6時半ごろ、43分版が完成。松尾放送総局長はさらに3分のカットを命じた。これにはスタッフが反対。「通常より短い時間で放送すると視聴者は異常性を感じる」と申し入れたが、放送総局長は「自分が全責任を取る」と応じなかった。
放送3時間前の同7時ごろから再編集の作業が再開された。削除されたのは次の3点。(1)中国人被害者の証言(2)東ティモールの慰安所の紹介と元慰安婦の証言(3)慰安所や強姦(ごうかん)についての元日本兵の加害証言。こうしてつくられた40分版が、夜10時から放送された。 (01/18 03:02) > http://www.asahi.com/national/update/0118/004.html
中川昭一氏や安倍晋三氏、NHKは、朝日のこうした報道に対して、NHK特集番組をめぐる「政治家の介入はなかった」としている。とくに安倍晋三氏は連日テレビに出演し、朝日の報道は事実誤認であり、北朝鮮の謀略だなどとして反論した。自分のHPでも18日に、次のように抗議をしている。
<私がNHK幹部を呼び付けて政治介入をしたと報じた部分については、取材の内容も明らかにされず説明が尽くされているとは到底思えない。・・・番組内容に「偏っている」点があったからこそ、NHKが自律的に公平中立で多角的な立場にも考慮した編集をしたと言っているのであって、この点こそが問題の真相を極める重要なポイントになる>
http://newleader.s-abe.or.jp/modules/news/article.php?storyid=15
今回の件については、長井NHKのチーフプロデューサーが勇気ある内部告発をしている。その会見の最中に、長井氏は次のように発言し、涙ぐんだ。
<で、不利益の問題のことですが、まあおそらく不利益を被ることにはなると思うんですけれども、私自身もこの四年間、私もサラリーマンですし、家族もあります。まあ家族が路頭に迷うわけにはいかないので、この四年間非常に悩んで…(うつむく)。………………。でも、あの………………………やはり真実を述べる義務がある……というふうに…決断するに到りました。(涙をみせる)>
放送法第三条には、<放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又(また)は規制されることがない>とある。また、第三条の二(1)には、<放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない>として、次の4点があげられている。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
問題は、<二 政治的に公平であること>の解釈である。安部氏や政権党の自民党などがさかんに口にするのが報道内容の「公正中立」ということだからだ。しかし、これは明らかに間違っている。
「公正中立」ということはプロセスの問題であって、具体的に言えば、<意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること>である。その結果明らかにされた内容については、少しも「公平中立」である必要なはない。
ジャーナリズムの使命は「真実」を報道することである。「真実」をつきとめる過程において、いかなる権威や権力にも屈せず、偏見や、時には常識にもとらわせずに、論理的で実証的な合理性を追求しなければならない。
ジャーナリズムは「公平中立」でなければならないが、それは真実を追究する過程の問題である。その結果得られた「真実」については、たとえ権力側に不都合なことであっても、これを報道することがジャーナリズムの良心であり、勇気であり、社会に対する義務である。これが「言論の自由」の原点であることを、私たちは肝に銘じておく必要がある。
(参考サイト) 「NHKの「模擬裁判」を扱う特集番組に関する報道について」(安倍晋三) http://newleader.s-abe.or.jp/modules/news/article.php?storyid=14
NHKの朝日新聞に対する抗議文は、 http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/otherpress/003.html
「NHKが困惑する特番「戦争をどう裁くか」騒動」 (週刊新潮 2001年2月2日22日) http://www.tetsusenkai.net/official/etv/kiji.htm
「カットされた4分間の謎 NHK「戦争をどう裁くか」に何が起きた」 (週刊金曜日 2001年3月2日) http://www.jca.apc.org/~itagaki/nhk/shukin353.htm
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