橋本裕の日記
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2004年12月14日(火) 真実を語らないメディア

 先日、犬山市民総合大学で政治評論家、森田実さんの講演を聴いた。森田さんの講演を聴くのは、去年に続いて2回目である。講演の題目は「時代を斬る」というものだったが、なかなか切れ味の鋭い講演だった。

 講演の中心テーマは「真実を語らない日本のメディア」ということだった。森田さんによれば、新聞やテレビ、雑誌はほとんど真実を語ろうとしない。記者達は知っていても書かないで、それを自分たちだけの秘密にして、大衆を馬鹿にして満足しているのだという。

 森田さんはそうした中で、「小泉構造改革」のデタラメさを告発するなど、真実を語り続けてきた。そのため、敬遠されて、マスメディアに登場する機会がずいぶん減っていたが、最近はまた省庁や経済界の会合に呼ばれて、講演をする機会が増えたようだ。そこで、現在の日本の絶望的な状況を具体に話すと、みんな息を呑んで静まりかえるのだという。

 森田さんによれば、日本の製造業の7割り、金融業の9割はすでにアメリカの巨大資本の影響下にあるという。日本に残っているのは、トヨタと電力産業くらいだが、この2つの山も、いま着々と外資の手で裾野が侵略されつつある。

 これを可能にしたのは、この10年間に行われたさまざまな「改革」である。建築基準法を変えて、アメリカの建築業界の日本進出を助け、商法を変えて外資の日本企業侵略を容易にした。そして司法や弁護士制度をかえて、日本をアメリカ並の訴訟社会にすることで、日本企業の足腰を弱め、アメリカ企業参加を促そうとしている。

 こうしたアメリカの要望は毎年「年次改革要望書」として日本政府に通達されている。これにしたって、これまで日本政府は自国の制度を「改革」し、アメリカに留学体験をもつ霞ヶ関の高級官僚たちの手で、着々と日本のアメリカ帝国への属国化がはかられてきた。

 こうしたカラクリを日本のメディアは決して国民に伝えようとはしなかった。しかし、この6月に建築家の関岡英之さんが「拒否できない日本」(文春新書)という本を書いて、このカラクリを明らかにした。

 真実を語るということは、その「しくみ」を語ることだ。そして、その「しくみ」を知ったとき、人々は声を失う。誰もか語ることをはばかったそうした「しくみ」について、実に雄弁に語っているのが、関岡英之さんの「拒否できない日本」である。森田さんは講演で、この本に書かれていることがいかに真実かということを、自らの独自の情報をもとに力説していた。

 たしかにこの本を読めば、構造改革と称する小泉内閣の進める日本社会の改造が、すべてアメリカの「年次改革要望書」に基づいて行われていることがわかる。森田さんはこの本を読み、胸の支えが降りるような気がしたという。そして、作者の関岡さんの来訪を受け、この問題について語り合ったそうだ。

 森田さんによれば、NHKをはじめ日本のメディアはいまだに真実を伝えようとしていないが、それでも最近、「拒否できない日本」のようなタブーを破り、真実によって虚偽を告発するような書籍がぼちぼち出版され、しかも売れるようになってきた。あきらかに、時代の潮流が変わってきた。これから、新聞やテレビもすこしはましな真実を語るようになるかも知れないという。

 新聞やテレビは貴重な情報源ではあるが、私たちはもっと本を読むべきだろう。いつの時代でも、真実を語る者はいた。そして彼等はその真実を伝えるために、ときには命がけで本を書いた。そうした命の籠もった本と出会う喜びを味わうため、森田さんは毎日のように書店に足を運ぶのだという。真実一路でひたむきな72歳の森田さんの講演に、とても共感した。

 なお、関岡英之さんの「拒否できない日本」については、すでに6月14日の橋本日記で詳しく書いている。最近では北さんが雑記帳で紹介している。北さんの雑記帳に引用された関岡さんの文章を孫引きさせていただこう。

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<数年後の日本を知る必読の文献>

 これから数年後の日本に何が起きているか。それを知りたいと思ったとき、必読の文献がある。アメリカ政府が毎年十月に日本政府に突きつけてくる『年次改革要望書』である。日本の産業の分野ごとに、アメリカ政府の日本政府に対する規制緩和や構造改革などの要求事項がびっしりと書き並べられた文書である。

『年次改革要望書』では、最近まで五つの優先分野が指定されていた。通信、金融、医療機器.医薬晶、エネルギーとならんで住宅分野がそのうちのひとつだったのだ。しかし二〇〇一年版以降の『要望書」からは住宅分野が優先分野から姿を消した。住宅分野に関しては、アメリカは欲しい物をすでに手に入れた、というわけである。

 住宅分野に関してアメリカ政府が日本政府へ要求していたのは、ひとことで言えば木材製品の輸入拡大、ということに尽きる。もともと日本はアメリカにとって木材製品の最大の輸出市場なのだが、アメリカはビジネス・チャンスを更に拡大しようとして、過去数年さまざまな要求を日本に突きつけていたのである。日本政府がこれまで建築基準法の改正、「定期借家権制度」の導入や「住宅性能表示制度」の導入など一連の規制改革を進めてきた最大の理由はここにあったのである。

<日本政府はなぜ外国業者の利益をはかるのか>

 私はなにもそれをインサイダー情報や内部告発などによって知ったのではない。アメリカの情報公開法のお世話になったわけでもない。アメリカまで行く必要さえなかった。自宅に居ながらにして、インターネットで誰にでも公開されているアメリカ政府の公式サイトから簡単に知ることができた。アメリカ政府自身が、その事実を公式文書のなかで堂々と公表しているのだから。

 それにしても日本の政府はなぜ、外国業者のビジネス・チャンスを拡大するために、審議会に諮問して答申書をつくらせた上で法改正まで行うという、手の込んだ手続を踏んでいるのだろうか。なぜそこまでする必要があるのか。

<クリントン政権の考え出した「年次改革要望書」>

 そもそもこの『年次改革要望書』とはいったいどういうシロモノなのか。日本とアメリカとの外交関係において、それはどのように位置づけられているのだろうか。アメリカ通商代表部の『外国貿易障壁報告書』二〇〇〇年版に、『年次改革要望書』というものが毎年提出されるようになったいきさつが書いてある。それによると、これは一九九三年七月の宮沢首相とクリントン大統領の首脳会談で決まったことらしい。

 個別産業分野の市場参入問題や、分野をまたがる構造的な問題の是正を日本に迫るための、アメリカ政府の包括的なアプローチである、と説明されている。わかりやすく言えば、アメリカが日本に外圧を加えるための新しい武器として、クリントン政権が考え出したもの、ということらしい

 この宮沢・クリントン首脳会談のときの政府間合意を根拠として、一九九四年に最初の『年次改革要望書』が提示された。それは三十二ぺ-ジの英語の文書で個別産業分野としては農業、自動車、建築材料、流通、エネルー、金融、投資、弁護士業・医薬・医療・情報通信など、分野横断的なテーマとしては規制籍や行政改革、審議会行政や情報公開・独占禁止法と公正取引委員会、入札制度や業界慣行、そして民事訴訟制度などが網羅され・まさに日本の産業、経済、行政から司法にいたるまで、そのすべてを対象にさまざまな要求を列挙したものだった。

<マス.メディアが今まで報道しなかったこと>

 日本政府も同時にアメリカ政府に対する要望書を提出することになっていて・表面上は対等かつ双方向という建前になっている。しかしもともとこの要望書は外圧の一手段としてアメリカから提案されたものだ。ことの発端からして双方向ではなかったのである。

 外務省の公式ホームページには、日本政府が毎年アメリカ政府へ送った『年次改革要望書』は掲載されているが、アメリカ政府が日本政府へ提示した方は公開されていない。不思議なことにマス.メディアでも従来このことはほとんど報道されていないのだ。

 二〇〇三年十月にもアメリカ政府から日本政府へ『年次改革要望書』が出されているが、なぜか主要な新聞はそのことを報道しなかった。二〇〇一年十月のときは・シンガポールで開催されたWT0」の非公式閣僚会議の際に田中真紀子外務大臣(当時).がゼーリック通商代表部代表と『年次改革要望書』を交換し合ったということを、十月十五日付けの日本経済新聞が小さなベタ記事で報道した。

 しかし「米国側の要望内容は明らかになっていない」として、内容にはいっさい踏み込んでいない。日本の将来にとってこれほど重要な意味を持つアメリカ政府からの公式文書である『年次改革要望書』の全文が日本のマス・メディアで公表されたことはないのだ。それでは、アメリカ政府が日本政府に毎年どんな要求を突きつけているのか、われわれ一般の国民はどうやったら知ることができるのだろうか。

<内政干渉を隠そうともしないアメリカ>

 種明かしをすればどうということはないのだ。アメリカ政府の日本政府に対する『年次改革要望書』は誰でも簡単に読むことができるのである。全文が日本語に翻訳され、在日アメリカ大使館の公式ホームページで公開されているからだ。過去数年のバックナンバーも、すべてそこで日本語で閲覧することができる。

 私は大学院の修士論文を書くために、建築基準法の改正についてインターネットでいろいろ調べているときに偶然それを見つけたのだ。なるほどアメリカという国は堂々と構えているものだ。内政干渉の事実を隠そうともしない。伏せようと努力しているのは、干渉している側ではなく、もしかしたらされている側の方なのかもしれない。

<要求の進捗状況は日米当局者が点検>

『年次改革要望書』は単なる形式的な外交文書でも、退屈な年中業事でもないアメリカ政府から要求された各項目は、日本の各省庁の担当部門に振り分けられ、それぞれ内部で検討され、やがて審議会にかけられ、最終的には法律や制度が改正されて着実に実現されていく。受け取ったままほったらかしにされているわけではないのだ。

 そして日本とアメリカの当局者が定期的な点検会合を開くことによって、要求がきちんと実行されているかどうか進捗状況をチエツクする仕掛けも盛り込まれている。アメリカは、日本がサボらないように監視することができるようになっているのだ。

 これらの外圧の「成果」は、最終的にはアメリカ通商代表部が毎年三月に連邦議会に提出する『外国貿易障壁報告書』のなかで報告される仕組みになっている。アメリカ通商代表部は秋に『年次改革要望書』を日本に送りつけ、春に議会から勤務評定を受ける、という日々を毎年過ごしているわけである。(P47−P53)
< 引用、終わり >


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