橋本裕の日記
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先日、たまたまテレビのスイッチを入れたら、NHK教育番組で「巨樹は語る」という魅力的な番組にであった。女優の大竹しのぶが、D・H・ロレンスの名作「チャタレイ夫人の恋人」のヒロインに扮して、イギリスのシャーウッドの森を訪れ、作品の紹介をしていた。
シャーウッドの森といっても、今はほとんど巨樹がなくなっている。往時の1/100だそうである。それでも所々に、樹齢が500年を越えるオークの巨樹が残っている。番組の中でも、中世の英雄ロビン・フッドが恋人と愛を語り合ったという伝説の巨樹が紹介されていた。
むかし、ヨーロッパの先住民族であったケルト人たちにとって、オークは神聖な存在だった。それはまさしく神そのものだった。しかし、現在ヨーロッパにはオークの原生林は残されていないという。
イギリスも昔はオークの森林に覆われていた。ところが、人々は巨樹を次々と切り倒し、城や教会を建てた。あるいは船を建造した。一隻の軍船を作るために2000本ものオークが切られたという。こうしてイギリスからもオークの森がほぼ消滅した。
貴族達は土地を囲い込み、そこを広大な牧草地とした。さらに、広壮な館を建て、庭園を作り、人工的な道や橋をつくった。ロレンスはそうした人工的な風景庭園を偽りの自然だと考え、小説の中で「現代は本質的に悲劇の時代である」と書いている。
ヒロインのコンスタンスは炭坑を所有する貴族クリフォード卿と結婚したが、戦争で下半身不随となった夫との間には性の関係がなかった。彼女は夫との生活に恐ろしい空虚感を覚える。何もかもが、あたかも目の前の庭園のように、ただ整っていて美しいだけで、本物の手触りや温もりが感じられない。
コンスタンスの心の中に、「お前は生きてはいない。自分をよく見て見ろ」という内心の声が響く。そうした空虚を満たそうと、彼女は本能的にシャーウッドの森を訪れ、そこで森番のメラーズと運命的な出合いをする。二人は恋に落ち、はげしく愛し合うことになる。
「彼女はすべてを放棄した。彼女のすべてをなすがままにさせた。そして、洪水の中に自己を失って、消え失せた。そして、生まれ変わった。女として、自然のままの人間として。・・・彼女は森のようなものだった。彼女はオークの森の、暗い茂みに似ていた」 番組の中では、現代のシャーウッドの森番が、ロビン・フッドの衣装をして大竹しのぶを森に案内しながら、「オークは300年かけて成長し、300年かけて生き、300年かけて死ぬ」と語っていた。彼の語る言葉に味わいがあった。
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