橋本裕の日記
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2004年10月11日(月) 「悪魔」にひれ伏した野中

 57歳の野中が京都の選挙区から代議士に立候補したとき、すでに田中派の若きプリンスであった小沢一朗は自民党の総務会長だった。そして野中の選挙を応援する実行部隊の中心だった。こうした経緯があるので、小沢にとって野中ははるか格下の新参の田舎議員にすぎない。

 しかし、みるみる永田町で頭角をあらわしてきた野中の実力にはあなどれないものがあった。「これからの小沢さんを支えるのは野中さんですね」と言われたとき、小沢は「なんで野中なんか!」と不愉快な顔をしたという。野中は著書「私は闘う」の中で、小沢についてこう書いている。魚住昭さんの「野中広務」から孫引きしよう。

<ちょっとしたことで小沢さんに注意したことが、お気に召さなかったようで随分前から『音信不通』状態になっていたが、年も私の方がはるかに上で『目くじら立ててもしゃあない』と思っていた>

 自民党の幹事長として京都にやってきた小沢が、連絡先も告げずに雲隠れして、夜の先斗町で遊んでいたことがあった。野中はそれを注意したらしい。小沢は「余計なお節介だ」といわぬばかりにプイと横を向き、それから口をきかなくなったという。

 年は上でも、国会議員のキャリアははるかに小沢が上である。保護者面をして私生活にまで介入してくる野中が、年次意識の強いエリート二世議員の小沢にはたまらなく不愉快だったのだろう。

 さらに、同じ田中派にいながら、小沢と野中は政治手法も違っていた。小沢は小選挙区制のもとでの二大政党制の実現を自分の政治目標にかかげていた。そうすれば与野党のなれあいや、党内の派閥政治はなくなり、政策を中心とした本来の政治が実現する。これで日本は劇的に変わると考えた。

 しかし、地盤や看板の上にあぐらをかいている日本の政治家の多くは、こうした改革を臨んでいない。与野党とも中選挙区のまま、自らの既得権益を守ることに汲々としている。小沢から見れば野中もまたこうしたどうしょうもない旧い体質の「守旧派」の一味でしかない。

 一方、野中にすれば、小沢のいうような白黒をはっきりさせ、正邪を厳しく問う西洋型の政治は日本の風土にあわないのではないかという思いがある。他者を切り捨て、対立をあおりたてるような政治ではなく、国民の宥和をはかるような政治が望ましい。中選挙区であれば、さまざまな階層の立場を異にする多様な声が圧殺されることなく国会に反映される。

 政治をさまざまな利害の調整の場だと考える野中と、自らの政治理念を実現させる場だと考える二人は水と油ほど違っている。ちなみに「構造改革」を主導する小泉首相もまた、小沢タイプの理念型の政治家だといえよう。小沢が「守旧派」と呼んだものを、小泉首相は「抵抗勢力」と言い換えているだけである。

 小沢は緊張と決断力のある政治を目差した。何事も明確にすることが好きなのである。そして原理や原則を重視する。これもたしかに大切なことだが、野中からみれば人生を知らないひよっこの二世議員であり、青臭くてつきあいきれないということになる。実際、小沢はせっかく手中にした権力を、わずか2年で手放さなければならなかった。

 小沢の政治理念に共鳴した多くの同志が、彼から次々と離れた。そして、小沢が失墜すると、自民党や社会党の「守旧派」が息を吹き返した。その立て役者が野中だった。しかし、社会党と組んで政権を奪い返した自民党も盤石ではなかった。

 1996年(平成8年)10月の小選挙区比例代表並立制で行われた総選挙で自民党は28議席増の239議席を獲得したが、過半数に届かなかった。しかも連立相手の社会党は議席を半減させた。

 そして98年7月の参議委員選挙で、自民党は惨敗した。改選前の61議席から45議席まで後退した。これで橋本は政権を投げだし小渕が後をひきついだ。野中は官房長官として、これを支えることになったが、前途多難なことはいうまでもない。野中は公明党との連立をはかる。しかし、まだまだ公明党も連立では踏み切れない。

 そこで野中が考えたのが、小沢の「自由党」との連立だった。野中は官房長官に就任した記者会見で、「法案を通すためなら小沢さんにひれ伏してでも、国会審議にご協力いただきたいと頼むことが、内閣の要にあるものの責任だと思っている」と発言し、周囲を驚かせた。

 野中は小沢を「危険な独裁者」とも「悪魔」とも呼んでいた。「彼と手を結ぶくらいなら政治家を辞める」とまで言い切っていた。その野中が、「悪魔」と手を握り、その前にひれふすというのだから尋常なことではない。

 小沢は機嫌よく野中と会って握手し、これまでの経緯をわびた野中に、「そんなことはいいよ。それより国家が大事だ」と答えたという。こうして翌99年1月に自自連立政権が成立した。1月末からはじまった通常国会では、「ガイドライン関連三法案」をはじめとする政府提出の重要法案が、自自公三党の圧倒的多数で次々と成立した。


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