橋本裕の日記
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2004年09月29日(水) 福沢諭吉批判の視座

 最近は足が遠のいたが、以前に「志談塾」という、元高校教師で、「教科書裁判」の活動になどに参加して見えた人が主宰している勉強会に毎月参加していた。大学教授や新聞記者、高校の教員など、いろいろな人があつまり、毎回レポーターを変えて、様々なテーマで議論や勉強をした。

 名大名誉教授の安川寿之輔さんがゲストに招かれたのは3年ほど前に勉強会で、そのとき福沢諭吉がアジア蔑視のひどい言葉を書いているということ、つまり中国人を豚呼ばわりし、処分などという言葉までつかっているということをくわしく聞いた。

 もとより福沢諭吉のファンであった私は、これにいささか驚いて、「福翁自伝」や「学問のすすめ」などを読みかえし、あらたに「文明論之概略」を読み始めた。そうした「アジア蔑視」の言辞がどこから湧いてくるのか、福沢の思想を根本的に研究して見たいと思った。

 しかし、今回の平山洋さんの「福沢諭吉の真実」(文春文庫)を読んで、そうした福沢のアジア蔑視の論文がことごとく石河幹明という福沢の門人の手になる著作であり、それが福沢の思想とはまるで別物であることを知った。

 平山洋さんの「福沢諭吉の真実」は実に驚くべき、そして愉快な書だ。たとえてみれば「コロンブスの卵」のようなものである。書かれてみれば、なるほどと、だれもがこれまで気付かなかったのが不思議なくらいだ。

 そこで、いつものようにこれを自己流の文章にまとめて、HP日記に掲載したところ、思いがけず「福沢諭吉の真実」の著者平山洋さんから、次のようなメールをいただいた。

<私の本をお取り上げくださりありがとうございます。拙著はそもそも三年前の安川寿之輔氏との論争の結果出来上がったものです。お礼のしるしとして安川氏との間に交わされた往復書簡資料集「福沢諭吉はアジア蔑視者か?」と、拙著の新聞紹介記事、それから最近書いた論文の抜き刷りを学校までお送りします>

 日記に紹介した本の著者から、こうしたメールをメールをいただくことは以前にもあった。オランダのことを書いていたとき、オランダ在住の倉部誠さんの書かれた「物語オランダ人」(文春新書)を紹介したところ、<橋本さんから戴いたコメントは、「正にそのように読んで貰いたかった」に尽き、大変ありがたく拝読いたしました>というメールをいただいた。

 独り合点で勝手に書いた文章が、こうして知らぬ間に著者に読まれ、メールまでいただけるのは、うれしいことである。今回の平山洋さんのメールも、著者に読んでいただいたと分かってうれしかった。そのうえ、貴重な資料までいただけるようで、ありがたいことである。

 福沢諭吉は国権皇張論者でさえもなかった。このことを知り、大方の疑問が解けた。心の中にたちこめていたもやもやの霧が、一度に晴れたような爽快さを味わうことができた。これで余計な雑音に惑わされずに、まともに福沢諭吉に向かい合うことができる。ようやく福沢諭吉の原点に立ち返ることができたわけで、これはとても有り難いことである。

 私は福沢諭吉の文明観には今日から見れば、問題点があると考える。しかし、福沢諭吉批判はアジア蔑視といった次元ではなく、「文明とは何か」というもっと本質的な視座からなされるべきである。この点について、「文明論之概略」を読みながら、もう少し考察を深めてみたいと思っている。 


橋本裕 |MAILHomePage

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