橋本裕の日記
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2004年08月02日(月) ユビキタス社会の夢

 坂村健東大教授が1984年に開発したコンピュータ基本ソフト「トロン」が家電や自動車のエンジン制御システムを中心にいろいろなところで使われている。坂村教授が今ねらっているのは、トロン搭載の電子荷札(ICタグ)の実用化だという。

 ICタグというのは、砂粒ほどの集積回路に商品情報が入り、端末に情報を送る小型のアンテナが付いたもので、坂村教授は「ICタグはモノと情報を結びつける接着剤。ユビキタス社会の実現にかかせない」という。

 ユビキタス社会というのは、「どこでもコンピューターが入り込み、ネットワークで繋がる社会」のことだ。トロンは廉価で機動性にすぐれているので、ユビキタス社会を動かす基本ソフトとしてすぐれているし、すでに家電などに搭載されて、シェア世界一の実績を誇っている。

 「トロン」をICタグの世界標準にできれば、日本の国産技術が世界貢献したことになり、私たちも鼻が高い。トロンをICタグの世界標準にする動きは広がり、すでに海外大手をふくむ450社がこれに参加しているという。

 しかし、これに水を差そうという動きがないわけではない。それがわが国の経済産業省がすすめている「響プロジェクト」だ。04年度から13億円の国費を投じ、「1個5円のICタグ」を目差して、こちらも国際基準をねらっている。

 経済産業省が押し進めるのは、「トロン」ではなくて、米国のMITの教授や米国の企業が中心になって開発したシステムだ。これを日本企業の優秀な半導体技術でICタグとして商品化しようというものである。坂村教授は「技術は大きく世界をリードしている。実用化にさも近いのは我々のグループ」だというが、「技術力」ばかりではなく「政治力」がものをいうのが国際基準統一の世界である。

 経済産業省がアメリカ製の基本ソフトにこだわるのは、やはり外圧があるからだろう。実は、トロン開発直後の1988年に、日本政府は教育用パソコンのOSとしてトロンの採用を決めたものの、米通商代表部がこれを認めなかったため、導入を断念したいきさつがある。これに懲りているので、今回は経済産業省がさきまわりして、トロンつぶしにかかったのだろう。トロンはまた潰されるに違いないという読みがあって、あえてトロンつぶしの先頭に立ち、勝ち馬のおこぼれにあずかろうと考えたのかもしれない。

 日本はアメリカの内政干渉によって国産パソコンを断念したばかりに、情報社会の基底にある基本ソフトをアメリカに握られるという対米従属のシステムを甘受しなければならなかった。苦節20年を経て、ふたたび世界の檜舞台に登場したトロンを、ここでアメリカの尻馬に乗って叩くことが、日本政府のすべきことだろうか。こうした対米従属路線を踏襲する小泉内閣の姿勢に憤りを覚えずにはいられない。


橋本裕 |MAILHomePage

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