橋本裕の日記
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| 2004年07月16日(金) |
宇宙の温度を予言した男 |
1964年、通信衛星の電波を受ける高感度のマイクロ波アンテナをチェックしていたアメリカの二人の電波技師、ペンジアスとウイルソンが、どうしても除去できない電波障害で悩んでいた。アンテナをどの方向に向けてもその雑音はなくならなかった。しかも季節や時間にも関係しない。
その謎の電波は地上のものではなく、宇宙からやってきたものらしい。しかも、宇宙の特定の星や銀河からやってきたものではなく、この宇宙空間そのものに由来するもののようだ。謎の電波の波長は約7センチメートルだった。
夜空の星星はよくみるとみんな色が違っている、赤い星もあれば青白い星もある。星の色は星の表面温度の違いだということが分かっている。赤い星ほど温度が低く、青白い星の温度は高い。
星だけではなく、すべての物体はその温度に応じた電波(光)を放っている。たとえば私たちの体からも電波が出ている。ただその温度が星の温度と比べて低いので、波長の長い赤外線がでていて、目に見えないだけだ。
波長7センチメートルという電波は、どのくらいの温度の物体から出る電波かというと、これが実に絶対3度(マイナス270度)という超低温の物体から放射される電波だ。しかも、今の場合はの電波源は、この宇宙空間そのものだと考えなければならない。つまり、この宇宙の温度がこのくらいだということだ。
1965年になってペンジアスとウイルソンはこのことに気付いた。しかも、これに近い宇宙の温度をすでに予言していた科学者がいたことも分かった。科学者の名前は「不思議の国のトムキンズ」の著者としても有名なジョージ・ガモフ博士だ。
ガモフが1946年に発表した「火の玉(爆発)宇宙論」は、「宇宙は高温高圧の火の玉から始まり、その後、膨張により冷えてきた」というものだ。彼はその証拠として、初期の大爆発の時の光が膨張によって冷やされ、絶対温度5〜7度ぐらいの電波として宇宙に残っているはずだと予言していた。
ペンジアスとウイルソンが偶然見つけた絶対温度3K(3ケルビン、正確には2.735K=-270.425℃)の電波こそが、ガモフの予言した宇宙の誕生にかかわる電波だったのである。宇宙空間そのものに満たされている電波だから、季節や時間帯に関係なく、しかもあらゆる方向からやってくることになる。
この電波のことを物理学者は今日「宇宙背景マイクロ波放射」と呼んでいる。そしてこの電波の発見で、ガモフの提唱した宇宙創造説「ビック・バン」がたんなる空想でないことがわかったわけだ。1978年にペンジアスとウイルソンは1965年に書いたわずか2ページ半の論文が評価されてノーベル物理学賞を受賞した。このときガモフが生きていたら、当然この名誉を彼らとわかちあっていただろう。現在では私たちの宇宙が「火の玉」から生まれたことは定説になっている。
(注)ジョージ・ガモフ(1904〜1968)。1928年レニングラード大学を修了し,ケンブリッジ大学を経て、コペンハーゲン大学助教授、1928年に原子核のα崩壊に量子力学を応用して“ガイガー・ルメートルの法則”を説明した。レニングラード科学アカデミー研究部長を勤めたあと、アメリカに渡り、ジョージ・ワシントン大学教授、コロラド大学教授を歴任。1948年に「火の玉宇宙」というアイデアを発表。あまりにユニークだったので、他の科学者から、「ビッグバン(爆発音、ばーん)理論」と呼ばれてからかわれた。彼はアイデアマンで、生化学では、4種類の核酸が遺伝情報の担い手であることを予言している。
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