橋本裕の日記
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2004年06月14日(月) 日本を支配する米国イニシャティブ

 毎年10月にアメリカ政府から「年次改革要望書」なるものが日本政府に提示される。しかし、このことは日本ではほとんど報道されない。2001年10月15日の日経新聞にたまたま報じられたが、これも「米国側の要望はあきらかになっていない」というベタ記事でしかなかった。

 たしかに日本政府はこれを公開していないが、新聞社やテレビ局が本気になれば、それはすぐにわかる。これはれっきとした公文書であり、アメリカ政府側はHPで毎年全文を公開しているからだ。それでは何故、新聞はじめ日本のマスメディアはこれを報道しないのだろうか。これがとるにたらないものだろうか。そんなことはない。関岡英之さんよれば、実はその反対だからだという。

<「年次改革報告書」は単なる形式的な外交文書でも、退屈な年中行事でもない。アメリカ政府から要求された各項目は、日本の各省庁の担当部門に振り分けられ、それぞれ内部で検討され、やがて審議会にかけられ、最終的には法律や制度が改正されて着実に実現されていく。受け取ったままほったらかしにされているわけではないのだ。

 そして日本とアメリカの当局者が定期的な点検会合を開くことによって、要求がきちんと実行されているかどうか進捗状況をチェックする仕掛けも盛り込まれている。アメリカは、日本がサボらないように監視することができるようになっているのだ。

 これら外圧の「成果」は、最終的にはアメリカ通商部代表が毎年3月に議会に提出する「外国貿易障害報告書」の中で報告される仕組みになっている。アメリカ通商代表部は秋に「年次改革要望書」を日本に送りつけ、春に議会から勤務評定を受ける、という日々を毎年すごしているわけである>(関岡英之著「拒否できない日本」文春文庫、以下の引用も同書)

 関岡さんによれば、「年次改革要望書」を読めば、数年後日本に何が起こるか一番よく分かるという。たとえばアメリカが「年次改革要望書」で「裁判所による公官庁に対する監視を強化するように」求めてきた翌年の1994年には、経済同友会が「司法改革審議会」の設置を提言し、その5年後にはこれが実現している。現役の法曹関係者が審議会のメンバーから一切排除されるという異例の人事だったという。

 アメリカがここまで日本の司法改革に熱心になるには訳がある。それはアメリカが日本を「談合の横行する社会」だと見ているからだ。司法改革により住民に集団訴訟をおこしやすくする法律をつくり、日本社会を、「アメリカの企業」にとって、風通しの良い社会にしたいということだろう。「年次改革報告書」では、地方自治法だけではなく、中央の公官庁公共事業についても似たような法律を作るように要求している。

 アメリカはさらに「弁護士業」の自由化も要求している。この要求が通れば、外国人弁護士が日本で自由に活動できる。「訴訟社会」で営業するアメリカの弁護士事務所は日本と違い、数百人もの弁護士を抱える巨大なものだ。こうした訴訟ビジネスを日本に持ち込み、日本をアメリカ並の「訴訟社会」にしようというのがその狙いだろう。ねらいは日本の政府や企業の監視強化である。すでにこの要求は一部実現している。2002年4月に「弁護士事務所の法人化」が日本で解禁になった。

 アメリカが「年次改革要望書」(イニシャティブ)で日本に要求していることは、この他にもこれまでほとんど実現してきた。独禁法や商法がこれによって改正された。この結果、企業の会計基準が原価主義から時価主義になり、株価の下落で多量の「含み損」をもつ日本の銀行や企業は大打撃をうけ、つぎつぎと外資に買収されるという最悪の事態をまねいている。

<アメリカは。ゼネコン業界の談合だけを問題視しているわけではない。通信、郵政、電力、ガスといった公益事業分野での、新規参入(たとえばアメリカ企業)への排他的行為の取り締まりを強化しろと「年次改革要望書」で毎年要求している。(略)

 これからの時代、日本企業は、時価会計導入で破局に追い込まれるか、公正取引委員会の「不正」摘発に怯えて系列を崩壊させるか、あるいは足腰が弱ったところをハゲタカ・ファンドに買いたたかれ、アメリカ型経営組織に改造されて青い目の社外取り締まりによって路頭に放り出されるかという、恐るべき三重苦が降りかかってくるだろう。いや、まだもうひとち大きな災厄が待ちかまえている。それは訴訟の嵐である>

 小泉首相はすっかりブッシュ大統領の腰巾着になって、着々と「年次改革要望書」を実行しつつある。郵政事業の民営化もまた、アメリカや、アメリカの資本参加を受けた日本の企業にとって、大きなビジネスチャンスになる。とくにアメリカの保険業界は、日本の郵貯・簡保に対して露骨な敵意を隠そうとしない。これらがハゲタカ・ファンドを使って日本の金融支配をねらってくるだろう。

 おそらくこの数年のうちに、さまざまな「改革」がアメリカ政府の「主導権」(イニシャティブ)のもとに実行されるだろう。小泉首相はこれを受け入れるために、公正取引委員会の所管を総務省から内閣府に移すなど、すでに万全の布石を整えている。こうした改革を小泉首相は「構造改革」と呼び、日本の内部にもこれを歓迎する人々が大勢いる。

 しかし、この改革は基本的にアメリカの国益とイニシアティブによって行われていることを知っておいてほしい。グローバルな国際社会で活動しようとするエリートにとっては歓迎すべき改革かもしれないが、日本を離れられない庶民にとって、この国は次第に住み難い社会になって行きそうだ。

(参考サイト)
「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書」
http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20031024d1.html


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