橋本裕の日記
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| 2004年05月14日(金) |
もう一つのアメリカ体験 |
以前、アメリカにホームステイをしている若い女性のメルマガを楽しみに読んでいたことがあった。彼女はアメリカの家庭にホームステイして大学で勉強し始めるのだが、ホームステイ先はどういうわけか、ヒスパニック系の貧乏な家である。
住居の環境は最悪で、狭い家に小さな子供たちがごろごろいて、どうやら、彼女はベビーシッター代わりらしい。食事はまずい。おまけにスペイン語が母国語らしい彼らと一緒に生活していても、英語はうまくならない。英語で話しても返ってくるのは、文法がめちゃくちゃのひどく訛のあるブロークン・イングリッシュだから、かえって英語力が落ちていく。
学校から帰ってくると、家事労働までやらされて、精神的にも肉体的にもくたくたの毎日が続く。リッチな白人の家にホームステイして、優雅な生活を夢見ていた彼女は、すっかり当てが外れてしまった。
こういう状態で、彼女は留学することの意味がわからなくなり、不平不満のカタマリになるわけだが、そうした生活の中から思いがけず見えてきたことがある。それはアメリカがすさまじい差別社会だということだった。この家族と一緒に買物をしたり、レストランや教会に行ったりしているうちに、彼らがひどい差別を受けていることがよくわかってくる。
たとえば、バスに乗って前の方に坐っていると、あとから乗ってきた男達に、「ここはおれの席だ。おまえたちはもっと離れた席に行け」と当然ごとく片隅に追いやれる。あるいは席に座らせてもらえない。日本人の彼女も同類と見なされ、ひどい仕打ちをうける。おごった連中のこの理不尽な扱いに、彼女は心底怒りを感じるのだが、どうすることもできない。
もし、彼女が白人の中流階級の家にホームステイして、彼らと行動をともにしていたら、おそらくこうした差別を身にしみて感じることはなかっただろう。むしろ差別する側に身をおいて、快適なアメリカを体験できたかも知れない。
そしてお金持ちの日本人がホームステイするのは、ほとんどが白人の中流以上の家が多いようだから、むしろ彼女のようなケースがまれなのだろう。彼女はたまたま悪徳業者に引っかかって、通常とは違ったところに身を置いたのかもしれないが、それゆえに、彼女の目にはアメリカ社会の真実がありありと見える。
さらに彼女の目に見えてきたのが、そうした厳しい現実に身をさらしながら、それでも懸命に、健気に生きている人たちの姿だった。やがて、彼女はその家族が大好きになる。ホームステイを通して、彼女がすっかり変わり、人間にたいしてとても温かい心をもつようになる。
人生は上から見るのと、下から見るのとではまったく違って見える。そして、私たちは差別されてみて、はじめて心の痛みがわかる。それは戦争でも同じだ。加害者に被害者の苦しみはわからない。この世界を平和にしようと思うなら、この痛みにもう少し敏感になったほうがよい。差別する心を生み出す社会が、戦争をも作り出すのだから。
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