橋本裕の日記
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2004年03月25日(木) 自由と民主主義の敵

「週刊文春」(3月25日号)が、「田中真紀子長女 わずか一年で離婚――母の猛反対を押し切って入籍した新妻はロスからひっそり帰国」と題して、田中真紀子衆院議員の長女の私生活に関する記事を3ページにわたり掲載した。

 これにたいして、長女の弁護士がプライバシー侵害だと東京地裁に仮処分を申請し、認められた。発売前の雑誌に出版禁止命令が出たのは極めて異例のことで、文春側はさっそく異議申し立てをしたが、東京地裁は、「表現行為の価値が被害者のプライバシーに劣ることが明らかである」として斥けた。

�,垢戮討旅駝韻蓮�個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。(憲法13条、個人の尊重と公共の福祉)

�⊇顕顱�結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲はこれをしてはならない。(憲法21条、集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密)

 東京地裁は、13条で保障されたプライバシー保護を優先して、21条で保障された表現の自由の規制もやむをえないと判断したわけだ。これに対しては、さっそく日本ペンクラブ(井上ひさし会長)や雑誌協会が「出版・報道の自由を圧殺する事前規制であり、事実上の検閲である」と抗議声明を出している。

 元最高検公判部長で弁護士の河上和雄氏は「プライバシーは民主主義が保障するが、その民主主義は表現の自由がなければ成り立たない」と主張し、立正大学の桂敬一教授(ジャーナリズム論)も、「今回の判断は、『表現の自由』を『プライバシー保護』より下に置くものだ」と地裁の判断を批判している。

 こうした問題について、田中真紀子議員は政治家としてどう考えているのか。国会内で報道陣からコメントを求められたが、「きょうは何もお答えできません」と繰り返しているだけらしい。文春側は4月1日号で、「田中真紀子長女記事、小誌はなぜ報じたのか」と題する抗議声明を出し、その中で次のように主張している。

<言論の自由を揺るがせにし、事前検閲の復活にも繋がりかねない出版物の事前差し止めには、厳格な要件が必要であることは言うまでもない。八六年の最高裁判例に従えば、事前差し止めの要件には、「その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であること」と「被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあること」の両方が必要なのである>

 私も問題になった文春の記事を読んだが、拍子抜けするほどつまらないものだった。むしろ同じ号に掲載されているジャーナリスト・落合博実の「国税庁の内幕−調査に震え上がった39歳年収七千万円のTVマン」という記事の方が衝撃的だった。国税庁の査察を武器にした役人の横暴が赤裸々に描かれていて、こんな記事を書いたら、役人の逆鱗に触れて、それこそ発行禁止になるのではないかと思ったものだ。

 これに類した官庁や政治家のあくどい手法を告発する記事を文春はこれまで何度も書いている。今回の出版禁止命令の背後には、こうして守勢に立たされた権力側の、「江戸の仇を長崎で打つ」というおぞましい思惑があったのではないか。むしろこう考えた方が問題の本質を見誤らないのではないかと思う。

 文春に限らず、最近のテレビ番組や雑誌・週刊誌の記事には、商業主義の傾向が顕著で、低俗で見るに耐えないものが多い。とくに個人の人権やプライバシー侵害に関して、マスコミは自分たちが加害者になりうるあやうさに無神経すぎる。これではマスコミ関係の人間に人権感覚がないのかと、見識や人格がうたがわれる。田中真紀子長女の離婚問題についても、これが「社会の公共性」の見地からなされたという文春の弁明は、とても信じる気になれない。

 しかし、今回の販売差し止めについて、その裁判所の一方的なやりかたは問題である。日ごろ野放しにしておいて、こうした強権的な方法で出版社に経済的損失を与えることは、占領下でマッカーサー司令部がよくやった手だ。これは言論統制に一番有効な手段であることは歴史が実証している。とかく「政治的中立性」が疑問視されている司法官僚の、こうした強権的な方法については、また別に批判する視点が大切だと思う。

 民主主義は「言論の自由」によって保障される。そして個人のプライバシーをふくむさまざまな人権も、民主的な社会であればこそ保障される。このことにに異論はない。しかし、それだからこそ、私たちは「言論の自由」の美名のもとに、市民の人権が侵害されるのを許してはいけない。自由を殺すものは圧政ばかりではない。自由にとってのほんとうの敵は、自由自身であることを、私たちは歴史から学ぶべきだろう。


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