橋本裕の日記
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| 2004年03月14日(日) |
システムに忠実な日本のエリート |
民主党の西村真悟衆議院議員が、超党派の国会議員でつくる「教育基本法改正促進委員会」で、「国のために死ねる日本人を生み出す」という趣旨の発言をしたという。こうした「愛国心が必要だ」という発言を繰り返し聞かされていると、善良な国民は政治家や官僚はさぞかし立派な愛国者だろうと思い、自らの愛国心のなさを申し訳なく思ったりするのではないだろうか。
そうでなくても、私たち庶民は「お上はエライ」というエリート崇拝神話をもっている。東大の法学部を優秀な成績で卒業し、アメリカのエリートがあつまるハーバード大学で学んだなどという輝かしいキャリアを聞かされれば、彼らはまったく雲の上の人たちで、私たちとは頭の構造が違っていて、私たちの知らない高級な知識を持ち、また道徳心やマナーもひときは秀でていると思いこむ。
政治評論家の森田実さんによれば、現在日本の省庁の次官や部長、課長といったレベルは、ほとんどアメリカのハーバードやエールといったエリート大学の出身者で占められているという。ヨーロッパの大学ではだめで、アメリカやイギリスのエリート大学でなければ出世レースに参加できないし、たとえ参加しても生き残れないのが現状らしい。
国会議員の学歴詐称が問題になっているが、小泉首相にしろ阿部幹事長にしろ、二世、三世議員のほとんどはアメリカやイギリスの大学に留学した体験を持っている。内実は留学などと言う立派なものではないようだが、私のように一度も外国の土を踏んだ経験が者からみると、それはそれで大した学歴だと思い込む。そしてこうした国際感覚に秀でた官僚や政治家達に政治をまかせておけば、まあ、大丈夫だと考える。
これは私に限らず、大方の日本の庶民が思っていいることではないだろうか。日ごろは「馬鹿な奴らだ」とエリートを口先で軽蔑していても、深層心理ではこうしたエリート崇拝のコンプレックスを持っているのがふつうである。とくに日本人は肩書きや権威に弱く、そうした立場に立つ官僚や政治家、大学教授の意見はとくに重みがあり、重大なものだと考える傾向がある。
これを助長しているのが日本の教育で、教師のいうままに教科書や参考書に書いてある知識を覚え込むことが大前提になっている。与えられた知識をうたがわず、与えられた解法を正確にマスターして、迅速に試験問題を解くことができた出来た生徒が自他ともに認めるエリートである。権威を疑い、自分の頭で考えるという本来の学問のもつべき姿がどこにも見当たらない。こうした教育的な風土の中で、私たち庶民は育てられ、そのなかからエリートが選別されている。
したがって、日本人は庶民もエリートも、与えられたシステムの中でしか実力を発揮したことがなく、そうしたシステム順応型の問題解決能力しか養成されていない。システムを疑い、システムを改革するという、ほんとうに独創的なことは苦手なのである。それは「権威にたよらず自ら考える」という自立的な思考訓練をうけていないからだ。こうした学問的訓練を受けず、経験もない日本のエリートが支配する社会も又、まったくシステムに順応するだけの保守的なものにならざるをえない。
システムを自ら考え、創造することができない日本のエリートは、結局今あるシステムをどこまでも押し進めるか、または彼らがもっとすぐれていると考えるシステムを借りてきて、これを金科玉条とするしかない。「愛国心」や「グローバリズム」に対する偏愛ぶりにこうしたメンタリティを濃厚に感じ取ることが出来る。
以上に述べた日本の知的エリートの代表として、たとえば竹中平蔵金融大臣の場合をとりあげてみよう。彼は1951年、和歌山県生まれで、73年に一橋大学経済学部卒業し、大阪大学助教授、ハーバード大学客員准教授、米国国際経済研究所客員フェローなどを経て、慶應義塾大学総合政策学部教授になった。2001年4月、小泉政権誕生とともに鳴り物入りで大臣に抜擢された。
彼の表の経歴はよく知られているが、その他に、アメリカのヘリテージ財団の研究員だったという特殊な経歴がある。この財団は1970年代から80年初頭にかけてアメリカ経済が、日本経済に押されて疲弊したときに、いかに日本経済を叩き潰すかを研究していた機関である。その研究員だった竹中氏が今日本の金融行政のトップにいるということは、一体どうしたことだろうか。
竹中大臣は自分を売国奴だとは思っていないだろう。グローバルスタンダードしか日本に生きる道はないと信じているはずである。そのためにはアメリカの金融政策に協力し、日本の銀行をアメリカ資本の支配下におくしかないと考える。私はこれはとんでもないことだと考えるが、竹中氏はそう考えない。それはアメリカのシステムが最高のものだと、アメリカ留学中に信じこんだからである。
竹中氏の描く日本再生シナリオはまったくアメリカのヘリテージ財団の受け売りでしかないが、しかし、これは日本のエリートをアメリカのエリートなみの特権階級にする「おいしい戦略」であることは確かだ。日本のためにもなるが、自分のためにもなる。そして世界のためにもなると、竹中氏を代表とする多くのアメリカ留学組のエリートが考えはじめている。いまや、日本の省庁はアメリカ政府の一部だと言っていいだろう。
ローマ帝国は異民族を征服し、そして異民族のなかに特権階級を作り出し、彼らにローマ市民の資格を与えた。こうした分断による統治は、ローマ帝国から大英帝国へと、そしてアメリカ帝国へと受け継がれている。アメリカに留学し、そこで「特権階級」としてとほうもない極楽体験をした日本のエリートたちが、その極楽を日本にも実現させたいと考えるのは不思議ではない。
しかし、私たち庶民までがその尻馬にのることはない。180万人もの囚人がいて、砂漠の国イラクで毎日何人もの兵隊が死んでいるアメリカが、庶民にとってどんなにつらい国か忘れないでおこう。
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