橋本裕の日記
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| 2004年02月14日(土) |
日本の景気回復は本物か |
各種の統計によると、日本経済の景気が少し上向いてきたという。ちなみに昨年12月の失業率は総務省発表の労働力調査によると、4.9%と2年半ぶりに5%を割る水準まで低下した。2003年の年間平均の完全失業率は5.3%になり、2002年の5.4%から0.1%低下し、バブル崩壊後初めて前年対比で改善した。昨年12月時点のアメリカの失業率は5.7%である。
しかし、失業率を世代別で見ると、15歳から24歳までの若年層の失業率は男子10.0%、女子6.3%と高くて、男性が0.7%悪化している。中高年層の雇用はいくらか改善したが、若年層で悪化しているのは問題だろう。 完全失業者が約300万人と、前年同月比で31万人減っているが、単純に雇用環境が回復したとは言えない。主婦や若年層を中心に、働く場所がないため就業意欲を失い、労働力人口から脱落していく人が増えているからだ。非労働人口は5346万人で46万人増え、労働力人口が6607万人と、前年同月比15万人減っている。
非労働人口増が労働力人口減を上回って、毎月増加していることの背景に、こうした情況がある。完全失業者の減少が就業者の増加ではなく、非労働力人口にシフトしていることが考えられる。
さらに就業の実態に大きな質の変化が見られることも問題だろう。「家計からみる日本経済」(橘木俊詔著、岩波新書)によると、最近パート労働者が非常に増加しており、現在では全労働者の約3割、女性労働者のうち5割近くが非正規労働だという。
経営の側からいえば、非正規労働者の労働コストは相当安くて済む。社会保険料の企業負担もなくなり、解雇もやりやすくメリットが多い。企業がリストラと称して正規労働者の首を切り、ふたたび非正規労働者として安い賃金で雇用するという手法が定着してきているようだ。
これを労働の多様化、現代化として歓迎する見方もある。ケインズ理論によれば賃金の下方硬直性が大恐慌の原因だという(橋本裕、経済学入門参照)。しかし、正規労働者の非正規化で賃金の下方硬直性が破られるのが本当によいことなのだろうか。これで日本経済が再生し、国民が幸せになれるのだろうか。私は大いに疑問に思っている。
1970年代に二度のオイルショックに見舞われ、日本は不況に陥った。このとき、私たちは選んだのは、こうした道ではなかった。このことについて、橘木俊詔さんの分析を、「家計からみる日本経済」から引用しておこう。
<当時は雇用の削減を避け長期雇用を保障することが社会のノルム(規範)だったので、雇用を守るために労働時間(特に超過勤務)を削減させることが、生産量の低下に対する政策として採用された>
<労働時間の削減によって雇用を守るという政策は、現代の言葉で言えば、「ワークシェアリング」の政策にほかならないことを指摘しておこう。オランダ、ドイツ、フランスなどの成功例によって、失業率を下げるために、わが国でも「ワークシェアリング」を導入すべきである、という主張が著者を含めてあるが、まだ本格的な導入までにいたっていない。・・・1970年代にわが国では既に労働時間短縮という「ワークシェアリング」を導入していたことを明記しておきたい>
橘木俊詔さんのよると、バブル後の不況において、私たちが選択した道は、「ワークシェアリング」ではなく、「リストラ」を中心とする、「失業」と「労働強化」の道であった。雇用不安を背景に、サービス残業が強要され、とくに30代から40代前半の男性を中心にして、過酷な残業労働が発生している。
非正規労働者の増加は、正規労働者をも含めた所得の低下をもたらし、家計の所得の減少につながる。勤労統計調査によると、雇用者の昨年12月の実収入は前年同月比0.7%減になっている。ちなみに公立学校の教員をしている私の昨年のボーナスを一昨年のものと比べると、17万円も少なかった。なんと2割り近くも落ち込んでいる。
このように見てくると、雇用統計上では改善したものの、数字はあまりあてにならないことが分かるだろう。雇用は改善しているかのようで、所得面では悪化傾向は続き、しかもサービス残業が常態化するなど、労働強化がすすんでいる。雇用の改善が所得の改善、個人消費の回復につながり、内需が拡大しない限り、本物の景気回復にはならない。
さらに問題なのは、たびかさなる財政支援で国や地方自治体の財政は極度に悪化していることだ。04年度政府予算でみると、82兆円の歳出を、36兆円もの国債でまかなっている。国債残高は483兆円になり、国と地方の長期債務は719兆円にもなり、GDP比で1.6倍に達した。イタリアでさえも1.2をこえてはいない。アメリカやドイツは0.7以下、イギリスは0.6以下の数字である。
<これらの数字を、いささか乱暴だが、年収650万の家計に例えた財務省の数字にそって考えてみよう。ローン残高が6800万円で、返済額は年間250万円に達している。使えるのは400万円だが、生活費に675万円かかる。親への仕送りもあるので、毎年520万円もの借金を重ねる暮らしだ。これでは、一家はいずれ破綻する>(2月12日、朝日新聞朝刊「財政危機率直に議論を」より)
政府は10年後には基礎収支を黒字にするという。しかし、これは今後10年間名目成長率が上がり続け、税収が大幅にふえると見込んでの話だ。神野直彦東大教授(財政学)は、「特別会計を含む政府債務は1千兆円にのぼると見られる半面、政府資産の詳細が公表されておらず、国民への情報開示はきわめて不十分だ。こんな状態でプライマリーバランス回復を目標にしたり、消費税だけに焦点をしぼりこむような議論をしたりするのはおかしい」と述べている。
論語に「民信なくば立たず」とあるが、いま、国の信用が大幅にゆらいでいる。経済は「信用」でなりたっている。そして「信用」の恐ろしいところは、これがほんの一日で瓦解することだ。為政者は国民の信用を失わないように、できるかぎりの努力をしなければならない。
そのために必要なことは、政府が国民を信用することだろう。いますぐ、国民の前に、政府資産の詳細を明らかにし、財政危機の回避に向けて、国民の叡智を広く求め、その意見に耳を傾けて欲しい。こうして国民と率直に対話することで、国民の中に広がる「不信」を「信」へと変えて行くべきだ。
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