橋本裕の日記
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最近、同僚のK先生の奥さんがなくなられて、お通夜に行って来た。死の原因はくも膜下出血で、倒れた後は意識が回復しないまま、一週間後に病院でなくなった。まだ40歳代の若さで、高校生と小学生の二人の娘さんがいる。お通夜の席で、奥さんを亡くされたK先生と二人のお子さんに会ったが、どう声を掛けて良いかわからなかった。
おかあさんがおかあちゃんに変わってた死近き母に吾は叫びし
故郷の電話番号押してみる亡き母の声聞きたく思ふ
そんなとき、eichanのこの二首の歌を読んで、涙を誘われた。とても切ない歌だ。私の母は健在だが、この歌はよくわかる。心にジンジン響いてくる。普段はあたりまえのように思っている日常も、うしなわれてみると、実はとても貴重なのだということがよくわかる。
日常を破壊するものの代表は、何と言っても戦争である。昨夜、名古屋ペシャワール会の集会に行ってきた。ペシャワール会はアフガニスタンで活躍する中村哲医師たちを支援する会で、ビデオやスライドを使って、現地の様子の報告があった。
ペシャワール会はこの20年間、アフガニスタンで病院を経営し、毎年15万人もの患者に医療行為をしている。さらにこれまでに1000本以上の井戸を掘り、いまは大規模な灌漑利水工事をしている。昨年の五月以来、のべ5万人もの現地の人々を雇って、戦争で荒廃した土地を灌漑によって復旧し、人々に生活の糧を与えようとしている。
岩盤のダイナマイト爆破回数が6千回にも及んだというこの工事が完成すれば、荒野のなかに1000ヘクタール以上の農地が生まれ、難民になっている人々が何万人も帰ってくることができる。現地の人々に生活の基盤を与えるこうした援助こそが本当に大切なのだろう。このたび現地を訪れた会員の人がこう語っていた。
「各国の政府の援助はカブールに集中している。しかしカブールの治安は日に日に悪くなっている。なぜかといえば、地方で食べていけない人々が難民になって都会に流れこんでいるからだ。カブールに行けば援助物資が手にはいると思っている。しかしこんな援助はあらたな難民を作り出すだけだ。彼らに必要なのは農地なのです。石油のないアフガニスタンは農業国なのですから」
こうした地道な援助を、もう二十年間も現地で展開しているが、この活動も今これまでにない危機に直面しているという。去年の11月2日に、この工事現場をアメリカ軍のヘリが機銃攻撃した。アメリカ軍に抗議すると誤謝だと言うが、いやがらせとしか受けとれず、アメリカからの謝罪も一切ないという。
さらに自衛隊のイラク派遣で、これまで日本人に対して友好的だった現地の人々の気持に変化が生じつつあるという。日本人だということで狙われない情勢のなかで、日章旗は消して活動しているという。現地で活動している柴田俊一医師は、「ペシャワール会報No78」にこう書いている。
<「日本は既にアメリカの一州になった」と言われて是非もなく、尊敬されるどころか、攻撃されるのは時間の問題でしょう。ひしひしと迫る破局の予感の中で、アフガニスタンの現状を見て、「この償いをどうしてくれる」と言いたいのが実感です。それでも悲憤を抑え、「だからこそ自分たちが此処にいるのだ」と言い聞かせ、砂漠化した大地が緑化する幻を見ては、わが身を励ますこの頃であります>
その上、現在のような混沌とした政治状況が続けば、灌漑で生まれた畑に「阿片」が栽培される危惧もある。アフガンではタリバン政権が阿片の栽培を厳格に禁止していたが、アメリカの軍事行動で政権が崩壊した今、首都カブールを除けば、国の大部分で地方の軍閥が復活し、熾烈な勢力争いを始めた。彼らは武器を買うために阿片を栽培しようとしている。麦などの穀物に比べて、阿片は何十倍もの現金収入になるからだ。
「軍閥の力はあなどれないし、阿片を作るなともいえない。畑が阿片畑にならないことを祈るだけです」と報告者も語っていた。今、アフガニスタンはアメリカ軍のプレゼンスでどうにか平和を維持している。しかし、アメリカが撤退すれば、一日でカブールのカルザイ政権は崩れるだろうという。アフガンをこのように破壊し、生活の基盤をねこそぎ奪った大国の責任はたいへん重い。しかもアメリカはこのアフガニスタンの悲劇を、イラクで繰り返そうとしている。
会場のビルを出ると、風は寒かったが、月が明るかった。月で思い出すのはアンデルセンの「絵のない絵本」だ。屋根裏部屋に棲む貧乏な絵描きに、毎晩、お月さんがその日に地球を旅して見た物語をひとつづつ語る。貧乏画家はその物語に慰められたり、涙したり、心が温められたりする。その多くは、悲しくて、切ない物語だ。アフガンの月はとても明るいという。お月さんはアフガンで、そしてイラクで、たくさんの物語を見ていることだろう。
(参考サイト)http://www1m.mesh.ne.jp/~peshawar/
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