橋本裕の日記
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2004年01月09日(金) 初秋

17.仲居の女

 修一が良子に最後にあったのは、会社の忘年会の宴会場でだった。酌にきた仲居の一人が良子だった。和服姿の良子を見るのははじめてで、印象も違っていたので、修一ははじめ気付かなかった。

「お久しぶりです。お元気ですか」
 前に坐った良子に声を掛けられて、修一は驚いた。うっすら化粧した良子は、もうもう三十代の半ばだった。その目がいたずらっぽく微笑んでいた。

「見違えたね」
「あら、今のはほめ言葉ですか」
「もちろんだよ。いい女になった」
 良子はほそかった首にもやわらかな豊かさが感じられ、襟足からあたたかな女の匂いがたち上っていた。

「あなたは、少しも変わりませんね」
「あいかわらず、骨皮筋右衛門だ」
「奥さんにちゃんと餌をもらっているのですか」
「まあ、なんとかね」

 会話と言えばそのくらいで、良子はすぐに横の席に移って行った。そして次々と客に酌をしながら、愛想をふりまいていた。
(女は変わるものだな)
 客商売とは縁がなさそうだった生真面目な良子が仲居になって、しかも身のこのなしや口のききかたまで板についていた。

 良子は一通り酌をし終えると、もう一度修一の前にきて、
「また、こちらをひいきにして下さいね」
「もう行くのか」
「忘年会のシーズンで、宴会が立て込んでいるの。私、これでも看板娘なのよ」
「看板おばさんだろう」
 良子はぴしゃりと修一の膝を叩いて、立ち上がった。

 それがもう十年以上前のことで、その後、修一は良子に会っていない。翌年も同じ店で忘年会をしたが、もう良子はいなかった。酌に来た仲居に聞くと、半年ほど前に辞めて、若狭に帰ったようだという。娘が一人いるという話だった。

 島田に良子のことを聞こうと思っていたが、そのままだった。芳子と結婚してからは島田とは滅多に会わなかったし、たまに島田から「さと」に呼び出されて酒を飲んでも、女将のさと子の前で島田の昔の女の話をするわけにはいかなかった。

 島田の口から良子の名前が漏れて、修一は仲居姿の良子を思い出したのだが、その頃はまだ良子は島田と続いていたのだろうか。島田ならその後の彼女の消息を知っていたかもしれない。修一は島田の額に汗が浮かんでいるのに気付いてタオルで拭いた。ついでに身体も拭いてやろうと思った。


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