橋本裕の日記
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2003年12月25日(木) 冬の夜

 最近、夜中に目が覚める。13歳になるマルチーズの愛犬リリオが少し前から心臓を病んでいる。夜中に苦しそうに咳をする声が、私の枕元に届く。医者の薬を飲んでいるが、日々に衰えていく様子がわかる。医者には「今年の冬はこせないだろう」と言われている。

 安静が必要なのだが、家族の者が近づくと、尻尾を振り、鼻先をつけて甘えようとする。しかし、そうすると余計にせき込み、苦しくなる。だから、今は犬の体に触れることも撫でてやることもできない。遠くから声を聞き、同情するだけだ。

 生後間もないリリオが貰われてきたとき、娘達は幼稚園と小学校に通っていた。それが二人とも大学生だ。家族の思い出の中に、リリオはそのなつかしい姿を刻んでいる。二年前に私は彼を抱いて、若狭の山に登った。頂上から眺めた若狭湾は真っ青だった。

 青葉山犬も登れりふるさとの若狭の海のさ青なること

 そのむかし棲みたる村の学びやを妻と娘と犬に指さす

 私は青葉山のふもとの青郷という村に、小学2年〜3年を過ごした。父がその駐在だったからだ。駐在所の前の畑の向こうが、青郷小学校で、その上に、青葉山がそびえていた。福井市に生まれ育った私には、田舎の暮らしが珍しかった。やがて伊勢湾台風で駐在所が半壊し、父は小浜署に転勤になり、私も小浜の小学校に転校した。小浜で3年間過ごし、6年生の時にふたたび福井に帰ってきたが、若狭は大切な故郷になった。青葉山の四季折々の姿も記憶に焼き付いている。

 寝床で愛犬の苦しそうな咳を聞きながら、私は昔の旅を振り返り、10年前に死んだ父を思い出した。ガンの末期だった父を見舞いに福井の実家に帰ったとき、二階に寝ていた私は階下から聞こえてくる父のうめき声を何度も聞いた。たいへんつらかったが、添い寝していた母はもっとつらかったと思う。父はそれからしばらくして旅立った。

 わが父母の暮らしを思ふ貧しくて諍いたるも今はなつかし
 
 父母のいずれを好くと尋ねられ中に埋もれて寝し日もあり

 あるときは仇のごとく憎みをり父を思ひて雪山仰ぐ

 雪雷を炬燵に聞きしふるさとは遠きむかしの夢にてあるらし

 愛犬の老いてしわぶく冬の夜は眠られぬまま風の音きく

 風花の白くながれる故郷の若狭の山はなつかしきかな 

 かさこそと落ち葉叩きて降る雨も雪となりしか夜のしじまに


橋本裕 |MAILHomePage

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