橋本裕の日記
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2003年12月22日(月) 初秋

12.結ばれるまで

 妻の芳子との間がうまくいかなくなったのは、ここ数年のことだった。それまで二人は喧嘩したことがなかった。喧嘩をしたことがないということが仲がいい夫婦の証明ではないが、少なくとも修一は妻に不満を覚えたことはなかった。

 おくての修一にとって、芳子は初めての女だった。都会育ちの芳子は、すでに修一の前に何人かの男性と交際があったらしい。その一人が島田だった。島田から芳子を薦められたときには、さすがに修一は後込みした。芳子は同じ夜間大学の同級生だったが、学部が違っていたので、面識くらいしかなかった。

「芳子さんは君が好きなんだろう」
「そうかもしれない。しかし、僕はもう彼女には興味がないんだ」
「だからといって、僕におしつけられても困るな」
「別に押しつけているわけではない。それに、何も結婚を前提にした交際をしろとは言っていない。お前のような初心者には、彼女くらいがいいんだよ。そう堅苦しく考えなくてもいい」

 島田に励まされて、修一はおそるおそる芳子と交際を始めたのだった。しかし、つき合ってみると、芳子は見かけによらずまじめだった。島田と交際していた時も、唇を合わせたくらいで、それ以上は許していないという。

「島田さんは、ああいう方でしょう。彼のことはとても好きなのよ。でも、私は結婚するまでは潔白でいようと決めたの。色々な男性と遊んだけど、私はみかけほど自由ではないの。ほんとはとても古風な女なの」

 修一は芳子の言葉を信じてもいいと思った。修一は夜の公園ではじめて接吻した夜、別れ際に、芳子に結婚を前提に交際することを申し込んだ。彼女は二つ返事で受けてくれた。このことを島田に報告すると、少し意外そうだった。

「そう思い詰めるな。もっといろいろな女を経験してからにすればよい」
「その必要はない。芳子でいい」
「お前は芳子を甘く見すぎているよ。悪いことは言わないから、芳子はあきらめろ。少なくても、もう一人くらい、つき合ってからにしろ」

 島田が次ぎに薦めたのは、同じ職場にアルバイトとして働きに来ていた短大生の良子だった。修一と同じ福井県の出身で、内気で控えめだが、芯の強そうなところがあった。きめの細かい白い肌と、だれからも好感を持たれそうな可憐な黒い目をしていて、修一も初めて見たときから惹かれるものがあった。

 修一は何度か会社の近くの喫茶店で良子と会って、話をした。気立てがよく、よく気のつく娘だった。自分の伴侶として、良子は最高の存在のように思われた。しかし、修一は芳子との約束を曲げることができなかった。そのことを島田に言うと、

「最初に良子をお前に薦めればよかった。女に免疫のないお前が心配で、つい芳子でウオーミングアップをと思ったんだ。お前はともかく、まさか芳子がお前を選ぶとは思わなかった。意外な展開だったな。しかし、お前を選んだ芳子は賢明だよ」

 大学を卒業と同時に、修一は芳子と結婚した。島田が二人の結婚披露宴の司会をひきうけてくれた。仲人は大学の指導教官に頼むつもりだったが、島田が会社の技術開発部長の佐藤をすすめた。その後、修一は佐藤に気に入られ、主任に抜擢されたりしたことを考えると、このときの島田は冴えていた。


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