橋本裕の日記
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2003年11月14日(金) 初秋

1.病院まで(1)

 病院へ島田を見舞う途中、修一は静かな木洩れ日がちらつく公園のベンチでしばらく足を休めた。9月の中旬になって、残暑がようやく収まりかけていた。公園の木立を渡る風や花壇の花に、修一は秋の気配を感じた。

 オフイス街にあるその公園は休日だということもあって人気がなかった。散歩道にそって並ぶベンチもほとんど空だった。修一は帽子とくたびれた革靴を脱ぐと、ベンチの一つに寝そべった。

 木洩れ日に目を細めながら、修一は病院のベッドに寝ている島田を思い浮かべた。今年の春に交通事故で重症を負った島田は、その後意識は戻ったものの、一年たった今も全身不随の重症で、記憶喪失で自分の名前も知らなかった。陽気で磊落な島田を知っているだけに、廃人同様の島田を見ることは修一にとってつらかった。

 島田と修一は二十数年前に、名古屋のN大学の夜間部の同級生だった。在学中二人は同じ民間の会社に勤めていたが、島田は大学で学びながら宅建の免許を取得して、卒業と同時に会社を退職し、不動産の商売を始めた。折からの不動産ブームもあって、順調に業績を伸ばした。

 年間の収入が一千万をこえるまでに何年もかからなかった。島田は外車を乗り回し、社員をつれて海外旅行に行くなど、羽振りがよかった。バーのホステスにマンションを買ってやって、愛人にしたりもした。

 しかし、バブルがはじけてから、彼は会社の経営に神経をすり減らしていたようだった。今年の春、事故に遭う数日前に、修一は久しぶりに島田に呼び出されて、彼の馴染みの店で飲んだ。カウンターで酒を飲む彼の横顔に、以前の彼にみなぎっていた精気がすでに薄れていた。四十代後半だとは思えないくらい若々しくて、黒くたっぷりあった頭髪も白く薄くなっていた。

 二時間ほど酒を飲んだが、いつも饒舌な島田の口数が少ないので、二人の会話は弾まなかった。新たな客が姿を見せる度に、島田はそわそわして、そちらを窺った。そんな神経質な島田を見るのは初めてだった。


橋本裕 |MAILHomePage

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