橋本裕の日記
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23.家なき子
家を抜け出してみたものの、別に行くあてがあるわけではない。私はとりあえず少し離れた所に住んでいる叔母の家に行ってみた。叔母の一家は私たちが若狭から帰ってくると、しばらくは一緒に暮らしていたが、やがて近くに貸し家を見つけて出ていった。今はこの若い叔母しか頼るところがなかった。
「どうしたの。学校は終わったの」 叔母は旅行鞄を提げている私を見て驚いた。 「ちょっと、旅に出ようと思って」 「どこへ行くの」 「月の宇宙ステイションだよ。かぐや姫に会いに行くんだ」 「冗談ばっかし。ジュースでも飲む?」 「ご飯をくれないかな。腹が減って死にそうなんだ」
私は昼間の食事を抜いていた。叔母は不審なまなざしを私に向けた。 「何か隠しているでしょう」 叔母に見つめられて、私は動揺した。何もかも打ち明けて、気楽になりたいと思う一方で、惨めな自分をさらしたくないという思いもあった。 「何でもないさ。ちょっと旅の気分を味わっているだけだよ」 私はしらばっくれて、叔母の握ってくれたおむすびを食べた。そして叔母が一人息子を保育園に迎えに出かけるのを見計らって、一緒に私も家を出た。
叔母の家から少し行った先が足羽川だった。私は堤の並木道を歩き、北陸本線の鉄橋が見えるところまで来て、ベンチに腰を下ろした。二年前に小浜で家出を試みたときは、東京に憧れての家出だった。ガード下で靴磨きをしながら、夢と冒険に満ちた生活をしてみたいと思ったものだ。今はそんな無邪気な気持にはなれない。
私は世間が生やさしいものでないことを思い知らされた。この広い世界で、私が身を寄せるところは、あの埃っぽい屋根裏しかないようだ。私が再び家に帰ってきたのは、すっかり日が落ちてからだった。
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