橋本裕の日記
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| 2003年10月14日(火) |
ドル安を円高という人々 |
このところ円高が話題になっている。円高になると自動車業界などの輸出産業が痛手をこうむる。そうすると景気がさらに悪くなる。株価も安くなる。やや小康状態を保っている日本経済に悪影響がでかねない。これでは困るというので政府・日銀はこの数ヶ月間、前代未聞と言えるほどの市場介入をおこなっている。
市場介入というのは、つまり円を売ってドル(米国債)を買うのである。どのくらい買ったかというと、この9月間で、1350億ドル以上だという。日本円にして、14兆円以上の金を使って、政府・日銀はドルを買ったわけだ。これだけドルを買い占めても、まだまだ円高が続く。9月末には日本の外貨準備高は6000億ドル(66兆円)を越えた。これは日本政府のまる一年分の予算に等しい。ダントツの世界一だ。
円高だというが、ほんとうはドル安である。ヨーロッパでは恐らくユーロ高とは言わないだろう。ところが日本ではドル安を円高という。そして円が高すぎるので、下げなければならないと誰もが考える。政府が円高是正のためにお金を湯水のように使っても、だれも目くじらを立てようとしない。こんなことは他の国では考えられないことだろう。
何故なら世界の人々は、ドルが安いのはアメリカがドル札をたくさん刷って、世界にばらまくからだと知っているからだ。アメリカは2003会計年度(2002年10月〜2003年9月)の財政赤字が、過去最大の4550億ドル(約53兆円)に達し、今後数年間でその累積は1兆ドルを超えるだろうといわれながら、国防費は2001年の実績ですでに、世界の2位から11位までの10か国の合計にほぼ等しい水準にあるが、04年度の国防費は前年度に比べ4.2%増の3799億ドルが求められた。こうして世界一強力な軍隊を持ち、さかんに戦争をする。しかも大減税と称して、アメリカ国民に総額で総額3500億ドル(約41兆円)もの小切手をばらまいている。
どうしてそんな無謀なことができるのか。それは日本がアメリカ政府が印刷したお札(米国債)を先回りして回収してくれるからである。そのおかげで、アメリカ国民は気前よくお金を使い、資源やエネルギーを大量に消費することができる。実に滑稽な国際分業だと言わなければならない。
日本政府はドル札(米国債)を買うために、その資金を準備するためのお札(国債)を発行しなければならない。これを日本の機関投資家に買わせて、そのお金でアメリカが印刷したお札(国債)を買うのである。政府は公共事業や役人が天下りするための特殊法人のために大量の国債を発行してきたが、最近はそれよりも遙かに多くの借金をアメリカのドル買いのためにしている。この9カ月で14兆円あまりもである。
もしこのお金の5分の1を教育に回したらどうだろう。文部科学省・生涯学習局によると、高等教育への公財政支出の対国内総生産比は日本0.5%,アメリカ合衆国1.1%,イギリス0.8%,フランス1.0%,ドイツ1.0%で,ほかのOECD諸国と比べても最も小さい。金額にすると3兆円と少しである。日本の高等教育にこれだけのお金しか使わず、アメリカの国債を買うために15兆円も使うのはどう考えてもまともな神経だとは思えない。
アメリカの国債を買うために、日本の国債を買わせる。そうするとどういうことが起こるか。一つだけ例を上げておこう。厚生省は年金積み立て金147兆円のうち、112兆円を「財政投融資金」に、残りの35兆円を「年金資金運用基金」で運用している。こうした厚生省の傘下の特殊法人が国債や株に投資し、あるいは豪華な保養施設などを建てて赤字を垂れ流している。そのあげく、昨年度は何と3兆608億円もの欠損を出した。年金改革が叫ばれているが、こうした各種の財団に天下り、年金を食いつぶしながら甘い汁を吸ってきた官僚の責任は大きい。
こうして、何兆、何十兆というお金が惜しげもなく垂れ流されている一方で、教育費はどんどん削られ、その負担が国民にしわ寄せされている。文部省・生涯学習局によると、大学在学者に占める私立大学在学者の比率は日本が77.5%であるのに対し,アメリカ合衆国は35.1%,フランスやドイツでは私立が極めて少ない。また,イギリスの高等教育機関は,中世以来,大学が伝統的に国王特許の形で設立されているため,形式面では私立に分類されるが,運営費の大半を公財政で負担しており,実質的に国立として機能しているとのこと。人を育てることこそが、最大の投資である。このことについて、私は以前に朝日新聞「声」の欄に拙文を投じた。これを最後に引いておこう。
------------- 教育への投資、政治は考えよ -------------
少子化の影響で、児童生徒の人数が減りつつある。そうした中で、文部省は5月に協力者会議の報告をうけて、「30人以下学級の実現」を見送る方針を決めた。教員の新規採用が減り、ますます教員の高齢化が進む。これでは学校の活力が保たれない。
明治の開国以来、日本がここまで発展したのは、政府が教育に金をかけたからだ。明治時代に日本を訪れた外国人が感心したのは、小学校の立派な建物だった。役所より学校の建物に金をかけて、それらは今も全国に文化財として残っている。さらに総理大臣以上の高給を払って外国人の教師を雇った。
戦艦や戦闘機に金をかけるようになって、日本は傾いた。その傾向は戦後も続いている。日本の学校の何と殺風景なことだろう。建物だけ見たら、刑務所と変わらない。
政治家は自分の選挙のことしか考えない。学校や教育に金をかけても票に結びつかないのである。空港やダムや道路を造れば身内や業界がもうかる。国民の血税でわけの分からないものをいっぱい造って、借金の山までつくって、それでも票さえ手に入れば涼しい顔である。
こんな無責任な政治家たちと、その息のかかった役人たちに、この国の舵取りを任せておいてよいものだろうか。総選挙では、各党の教育に対する取り組みに注目したい。 (朝日新聞「声」2000,6,16)
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